37.《ネタバレ》 -Field Of Dreams- “夢の球場”ケビン・コスナー全盛期の映画。ケビンのナチュラルな魅力が出ていて、素直にカッコいいなぁ。
ハリウッドが本作のような“怖くない幽霊の映画”を創ってきたことに、まず驚いた。だって幽霊の理解度って、繊細な日本の得意分野と思っていたから。アメリカ人にとって宗教的に幽霊ってどんなポジションなんだろう??
そしてジェームズ・ホーナーの“いかにも奇跡が起きそうな”音楽が、この不思議な物語を盛り上げる。
いやほんと、アメリカ人って野球が好きなんですねぇ。この映画も野球愛、歴々のプロ野球選手に対する尊敬の念に溢れています。アメリカ人の精神・共通認識は野球を通じて育まれてきたのかもしれません。
シューレス・ジョーと1919年の“ブラックソックス事件”なんて題材を持ち出すのが凄い。どれだけマニアックな題材なのか知らないけど、日本だと遡ってせいぜい、戦前の沢村栄治(巨人の星の再放送で知った)とか、事件だと江川の入団事件('78年だって)くらい?アメリカの野球の歴史の長さと浸透度が凄い。
とうもろこし畑の真ん中で、伝説の野球選手が夢の対決をする。これこそ大人のファンタジー。アメリカの夢。野球少年の憧れ。でしょうねぇ。野球はすべてを受け止める。過去の事件を水に流し(タイ・カッブ以外)、父との関係も修復する。
レイとジョーの70年を隔てたキャッチボールに始まり、15年前に亡くなっていた父とのキャッチボールに終わる。何も話して無くても心が通じ合ってる気持ちになれる。キャッチボールってもともと、野球の練習の肩慣らしだと思うんだけど、誰かとのコミュニケーションとして、これほど頭を空っぽにして出来る運動って、他にないかも?だからって訳じゃないけど、この映画も頭を空っぽにして楽しむ映画です。キャッチボールみたく。
天の声って何?自分が死んだときを知っている1919年の選手たちってどんな存在?突然1972年にタイムスリップ?若いグラハムは球場の外から入っていったぞ?最後のヘッドライトの川、どこで聞いてどこから来たの?正直言ってやってることはもうメチャクチャ。
これもし、レイが独り身で、理解ある可愛い奥さんが居なかったらもう、とんでもない結末になってたと思う。
なので、ここでの評価がメッチャ割れてるけど、それも解る気もする。
この映画は父の歴史から始まる。アイルランド系で第一次大戦に行って…。この時のレイは家族の生活のために、細々と農場経営を続けて、淡々と生きていく毎日。そこで一度立ち止まって、過去を振り返ることから始まる。奥さんの名演説の中に「'60年代を生きたなら理解できるはず。あなたは'50年代を2度生きて'70年代に飛んだのよ」隠しても誤魔化しても、あの会場の人はみんな'60年代を生きてきたのは事実。
父の歩んだ歴史、野球の歩んできた歴史、アメリカが歩んでいる歴史。それらは自分の存在を考える時、決して切り離せない関係で、歴史が有ったからこそ今の自分がある。良いことも悪いことも全部受け止めて、それを飲み込んでこそ前に進める。淡々と生きるのではなく、前を向いていこう。
この映画は、日本に最新技術で押されていた当時のアメリカ人に、自分たちの歴史、アメリカ人であることを誇りに思う気持ちを湧き起こしたんだろう。
だから逆に言うと、この映画に日本に関するものは出て来ない。純度100%アメリカの、それも“ど田舎(心の故郷)”の話だ。
主人公の仕事が第一次産業(農業)なのも、アメリカが日本に勝る部分なのと、日本ってキーワードを出さなくて良い分野。
最後のヘッドライトは言うまでもなくアメ車の群れ。どこから聞いたか、アメリカ人がアメリカの誇りを胸に、次々球場に集まってくる。
この映画を、アメリカ同様に野球が国民的スポーツの日本に持っていく。怖くない幽霊を理解している日本に持っていく。
この映画はアメリカから日本への挑戦状、というか、アメリカ人の決意表明だったのかもしれない。・・・それか私の考えすぎかもしれない。