1.《ネタバレ》 長門裕之、ちょっと演技過剰だけど「滅びゆく豚の代理人」としてその愚かさを否定的でなく描いている。ヤマ場で豚に向かって「逃げろ」と叫ぶのは、初めて恋人吉村実子への真摯な語りかけだったんだろう。アメリカに寄生する豚のような人間たちを豚が押し潰していく60年安保直後の夢の爆発、アメリカに色目を使うネオンサインを機関銃で破壊していく爽快な夢。でも本人は便器に顔を突っ込んで死んでいくわけで、夢でない現実は吉村実子のこれからに託されるわけだ。ラストの超望遠で口紅を拭き取るシーン、以後も今村でよく目にする望遠の効果の代表例となる(その対極のように豚とそれに潰されていくやくざの顔が画面にミッチリ詰め込まれたカットもあった)。基地に寄生するという形で現実を生きていく女たちも、批判的ながらイキイキ描かれていた(70年安保のときにもう一度横須賀をドキュメンタリーで描いた『にっぽん戦後史』で、そういうマダムを対象にする)。でも本作が記憶に残るのは日本では珍しかったブラックユーモアの連発で、癌ノイローゼのやくざという造形が傑作。自殺できない気の弱さから殺し屋に「知らない間の射殺」を依頼するも、その後勘違いが分かって逃げ回るという滑稽。それ以上に記憶に刻みつけられるのが加藤武で、ニコニコ笑いながら「へへへ、シルが出たよ~」と死体処理の汚れを人につけて楽しんでいる。「豚から入れ歯」のシーンも、彼のニコニコ笑いがあるのでさらに弾ける。小沢昭一のエッセイにはよく加藤の話が登場し、生粋の江戸っ子なのね、彼。本作のニコニコ笑いを見てからずっとファンです。