2.実在する画家が、マルメロという果実(日本で言うところのカリンですな、蜂蜜に漬けて、咳止めの薬になるという)を描こうとする様子を単にカメラで追っているだけなのだが、これを単純にドキュメンタリー映画だとは呼びたくないほど、マルメロと画家と監督の関係は、とても真摯で親密な関係を築いているようにみえる。画家は「写真に写して描けば」と言われても聞かずにマルメロの実のなっている木の傍を離れようとはせず、マドリッドの陽光を浴びて多彩な表情を見せるマルメロを一心にキャンバスへと写し取っている。そんな画家とマルメロを、カメラは静かにひたすらに捉え続けると言った風に。なんだか、そんな姿を呑気に眺めていると、こちらも次第に幸せな気持ちになっていくのだから不思議だ。例えて言えば、前作が小津のようにごくわずかなカットから「見えないもののありかを指し示す」ように描いていたのに対して、本作では、清水宏(この人も昨年生誕100周年だったんだと。特集もやってました。ホントに観たかったよ~)のように、写す対象全てを愛し、これらを丸ごと写しとろうと言う試みのようだと言ったら、こじつけだろうか?