4.《ネタバレ》 この作品は永らく観たいと思っていたのに観ることができなかった作品で、まず鑑賞することができたことを嬉しく思う。
内容としては、ジャック・リヴェットの『美しき諍い女』を想起させるもので、画家が対象物とひたすら格闘するという、一種のドキュメンタリーである。
ただ、本作『マルメロの陽光』は、その描く対象物が言葉を発する人間ではなく、“マルメロ”という名の果実という部分において、更にストイックさが強化されているように思う。
何ヶ月もかけて、陽光の当たるマルメロを描いては消し、描いては消し、その作業を延々と繰り返す。
それが140分という尺で描かれているわけで、もちろん、ストーリー展開で楽しむ映画ではない。
自然光がマルメロに当たり、その微妙な陰影を、主人公がとり付かれた様にして、無心に描いていく。
一番の目的は、画を描き完成させることではなくて、その陽光に輝くマルメロと長い時間を共に過ごすことなのである。
これは、ある見方をすると、好きな事に没頭し、それで生計を立て、マルメロが枯れてしまったら、あとは寝る、みたいな、まさに天職に彩られた人生で、理想の人生と言えるだろう。
陽光に輝くマルメロを描く初老の男性を映しただけの作品だが、そこから読み取れるものは人により異なるであろうし、様々なテーマが浮かびあがってくるに違いない。
監督のヴィクトル・エリセは、超がつくほどの寡作な監督として有名だが、長い時間をかけただけの深遠なるテーマを、本作から感じとることができた。