1.《ネタバレ》 「実録物」の元祖?とも言えるマキノ省三生誕50周年記念の作品。
生涯で実に400本以上映画を撮ったと言われるマキノ省三だが、残念な事に現存するフィルムは数本のみで、しかも1時間以上残るフィルムは「雄呂血(製作総指揮)」「忠魂義烈 実録忠臣蔵」と「百萬両秘聞」ぐらい。
息子の正博(雅弘)との共同作「浪人街」も総集編として1時間足らずのフィルムが残るのみだ。
幸いにも「百萬両秘聞」は前後半合わせて100分以上も現存する貴重なフィルム。コチラも是非とも見たい作品だ。
前・後編それぞれ1000円もしないので、とてもリーズナブルな値段で入手できる。
本作「忠魂義烈 実録忠臣蔵」は2時間以上にもなる当時としては大作だったらしいが、マキノ省三は作品の出来に不満を洩らしてらしく、フィルムも編集中の火災でネガの半分を失ってしまう。
残ったフィルムを何とか繋ぎ合わせ、終盤の討ち入りシーンも焼失したので急遽正博が撮影し直した。
そのため「忠臣蔵」の1時間ダイジェストという出来だが、終盤の迫力ある戦闘は凄まじいものだ。
出演に嵐長三郎、端役に月形龍之介や山本礼三郎など後の実力者たちも名を連ねている。
本作は古典的な「忠臣蔵」のストーリーを映画化。
大胆なカメラワークで迫力あるドラマを魅せる。
中盤の忠臣たちが一斉に抜刀して誓を立てる場面。
カメラでぐるりと収めるようなショットが面白い。
吉良を欺こうと女遊びにふける内蔵助。
女人衆が「うきまさ」または「うきはし」の文字を作る。
つまらなくもないし、特にこれといった突き抜けるほど面白いというワケではない。
ただ終盤の戦闘。
正博が撮り直した場面だが、吉良邸に押し入る浪士たちの群れ、一斉に白刃を抜き討ち入る迫力は凄い。サイレント特有の超高速戦闘。
目にも止まらぬ速さで刃を交わせ敵を斬り倒していく。
修羅場と化す吉良邸、偽装工作と動かざる「額の傷」。
ラストシーンはフィルムの都合もあると思うが、あえて橋の上を渡る浪士たちの後ろ姿で締めくくる場面が良い。
逃れられぬ死の運命・・・最後まで戦う事を選んだ男たちの“死の匂い”を感じた。
今でこそ「忠臣蔵」は史実より脚色された「虚構」であり「神話」状態だが、主君の無念に体を張って応えた義侠心は捨てがたい。