1.《ネタバレ》 自国の兵士を誰1人現地に送り込まなくても作戦が完了する現代の戦争。
「世界一安全な戦場」という邦題の通り、本作に登場する、この作戦に関わる英米の軍人が戦死する可能性はゼロ。
今回の作戦行動はケニアの首都ナイロビのテロリストが潜むアジト周辺の一区画のごく狭い範囲のみ。
しかし、一瞬たりとも緩むことの無い、張りつめた緊張感が凄い映画。
作戦を指揮する、ヘレン・ミレン演じるイギリス軍大佐、彼女の上官であるアラン・リックマン演じる中将。
ミサイル発射のボタンを押す、作戦の末端にいるアメリカ軍中尉とその部下。その中尉の上官。
彼ら軍人と、ロンドンにいるイギリス政府の大臣や官僚たち。
ここに挿入される、テロリストのアジトの脇でパンを売り始める少女の存在が効いている。
作戦を今決行すれば、大物テロリストたちを間違いなく抹殺できるが、確実にこの少女が犠牲になる。
軍の高官、官僚たち背広組、ミサイル発射のボタンを押す兵士達。様々な思惑を実にテンポよく交錯させる。
そしてこの作戦に関わった関係者の多くと同じく、見る者の視線をパン売りの少女に向けさせる。
常に現地のドローンから送られるアジト内のテロリストの動きと少女の様子。一刻を争うライブ映像の緊迫感が凄い。
更なる緊迫感をもたらすアクシデントの挿入も実によく計算されています。
関係者たちが現地の映像を自国の作戦室や会議室で見つめる様は、
オバマ大統領たちがビンラディン殺害計画の様子を食い入るように見つめていた当時のニュース映像を思い出しました。
エンドロールの最初に出てくる「アラン・リックマンを偲ぶ」というメッセージ。
リックマンの遺作となった本作。主演ヘレン・ミレンの熱演が印象に残るとともに、
彼女とは対照的な、リックマンの静かなる存在感も印象的でした。特に、数々の修羅場を見てきた彼の本作最後の台詞が重かった。
声高に正義を訴えることもなく関係者の言動を追う中に投げかけられる問題提起とともに、サスペンスとしても一級品の作品です。