1.《ネタバレ》 「人類初の月面着陸を成し遂げた男の英雄譚」を期待して観ると肩透かしを喰らう。
そう言った点では、日本に於ける本作の宣伝の仕方には大いに疑問を感じている。
描かれているのは旦那さんがテストパイロットをしている一組の市井の夫婦の物語だ。
その描き方は多分に第一人称の視点が多く、この手の映画(ライトスタッフやアポロ13等)に有りがちな勇壮な音楽と共に主人公の様子を描写する、
劇映画らしい高揚感を誘うシーンは殆ど観られない。
恐らく監督さんは過去一連の宇宙開発物の映画を研究し新しい視点を盛り込みたかったのかと思うし、
本作に関してはその試みは充分以上に成功していると言えるだろう。
圧巻はアポロ計画の前に実施されたジェミニ計画の中で、本作の主人公であるニール・アームストロングが搭乗したジェミニ8号の描写。
それは記録映画として残されている「栄光に満ちた宇宙旅行」とは程遠いものだった。
空中分解しそうな位に手作り感満載の狭くて汚い宇宙船に乗り(乗ると言うよりは無理やり押し込められるに近い)、
宇宙船の内部は狭くて視界も限られ、華やかな宇宙開発での仕事場とはとても思えないものだった。
ましてや自分の尻の下では膨大な量のロケット燃料が炸裂している正に死と隣り合わせの環境。
発射時の振動や騒音は一般人の想像を遥かに越えており、そんな現場の状況を知ってか知らずか徹頭徹尾冷静に交信してくる地上管制官の声とのギャップがすさまじい。
アポロ計画に移行してからも派手な演出は一切無く、唯一カタルシスを感じるのは月面到達のシーン位だろうか。
それも殆どが無音であり、テルミンで奏でられる音楽も勇壮なものでは無く寂寥感を感じさせるもの。
慣れないと息が詰まりそうになる様な描き方だ。
亡くなった娘の形見を月面のクレーターに遺し一筋の涙を流すライアン・ゴズリングの描写が史実に沿ったものなのか真偽は判らないが、
ここに至るまで彼の寡黙な佇まいが徹底して描かれていたが故に、私に取っては十分有りな印象的なシーンだった。
極め付きは地球に帰還してからの描写。
着水シーンも、大統領と握手をするシーンも、パレードのシーンも何も無く、有るのは検疫所で黙って見つめ合う夫婦の姿のみ。
私には極めて感動的だった。
惜しむらくは、月面着陸前に当時の大統領が発した「米国の代表」と言う言葉を否定し、「我々は人類の代表」と正すシーンが無かった事。
これがあれば完璧だった。
余談 アポロ11号搭乗員で指令船に残るマイケル・コリンズを演じていた役者さん、「何処かで観た事あるな・・・」と思っていたら、
なんと「刑事ジョン・ブック 目撃者」で印象的な演技をしていた子役:ルーカス・ハースだった事が判り驚いた。 時間は皆に平等だ。