6.《ネタバレ》 小津安二郎のラス前作なのですが、『秋刀魚の味』よりよっぽど遺作っぽい不思議な作品です。まず、原節子、『秋刀魚の味』には出てないのでこれが最後の小津映画。『東京物語』と似た設定の未亡人なんだけど、本作では『東京物語』での役柄とは違ってなんか凄味まで感じさせられるたくましい女性だと思います。お見合い相手の森繁久彌を翻弄しちゃうところなんか、この役は性格が悪い設定なのかなと思ってしまいました。小津映画の特徴である登場人物たちのアンサンブルは円熟の域に達していますが、やはり新珠三千代がとくにいい演技を見せていますね。 この映画のテーマは、中村鴈治郎が演じる道楽旦那が天寿を全うするまでの数カ月の出来事なんですが、小津安二郎の“死”に対する恐れと無常観が痛いほど伝わってきます。とくに鴈治郎と19年ぶりに再会して、結局その死を看取ることになった浪花千栄子とその娘団令子、この二人のキャラクターは個人的には不気味に感じました。まるで死期が近づいた鴈治郎を黄泉の国からお迎えに来た物の怪じゃないかと思えるぐらいで、とくに死んだ鴈治郎を前にした二人の会話は凄くシュールじゃないですか。笠智衆が出てくるシーンも本筋には関係なくてちょっと変だし、この辺りで流れる音楽がまた突然暗くなってきてなんか不気味です。 よく「脚本に全然無駄がない」という褒め言葉を聞きますが、小津映画、とくに本作は不思議なほど無駄なところや隙がある。それでも名匠の手にかかると傑作になる、映画とは実に不思議なものです。 【S&S】さん [CS・衛星(邦画)] 9点(2012-07-24 23:59:38) |
5.人物、静物の配置の納まり具合には相変わらず惚れ惚れとする。二人が同時にしゃがむ、時間差でしゃがむ。複数が同時に動いた時の静止位置、ビール瓶、グラスの位置。精緻な計算による美学。路地や玄関、廊下、縁側に差し込む残暑の強烈な光線が生み出す光と影のコントラスト。縁側、川べりの原と司のツーショットの誘惑。この二人のしゃがむ位置が法事と葬儀とでは左右反対になっているところを見ると逆転の普遍性を語っているようにも思えてくる。孫とかくれんぼをしていた中村鴈治郎が鬼から逃げる方、「もーいいかい」から「もーいいよ」に反転しているように、死者を見送る生者もいつかは見送られる死者に反転する。火葬場の煙突がフレームの真ん中に位置する左右反転可能なシンメトリーな構図はそういうことではなかろうか。ラストのカラスも左右に二匹である。 【彦馬】さん [CS・衛星(邦画)] 9点(2006-12-12 22:40:55) |
4.《ネタバレ》 いつもの小津組に東宝のスター達も出演してる豪華キャスト作品で新鮮だった。内容も関西が舞台だからかコメディタッチで面白い。中村鴈治郎・浪花千栄子・山茶花究辺りは流石の演技。小津作品で森繁はちょっとどうなのかとは思ったけど。あと気になるのは家族関係がややこしい。途中まで何で原節子だけ標準語?とか思ってたし。杉村春子・遠藤辰雄・加東大介はどういう親戚なのかわかんないしw それとラストのカラスがなんか不気味だった。 【バカ王子】さん [CS・衛星(邦画)] 9点(2006-05-31 23:33:03) |
3.中村雁治郎氏の息子さんがお父さんそっくりなんです。この間息子さんの写真を見て、中村雁治郎さん、いまだご健在かと一瞬思ってしまいました。 【ロイ・ニアリー】さん 9点(2004-03-10 05:47:20) |
2.中村雁治郎氏が出演されていると、小津映画でも軽快さが加わってなかなかとっつきやすい。雁治郎氏は歩くだけで、どこかユーモラスで味わい深い。笠さんはどこに出演しているのだろうと思っていたらラストの方にしっかり出演されていた。ほんのちょっとの農夫の役だったが、素晴らしかった。 【柴田洋子】さん 9点(2004-02-07 09:21:30) |
1.小津作品は(当然だが)若い頃はあんまり好きじゃなかった。淡々としてうねるようなドラマティックな展開もカタルシスも皆無。コレで一体何を楽しめと?てな感じw。中年になって改めて観ると実に味わい深い逸品であることに気付かされる。本作の場合、松竹蒲田の撮影所を出て珍しく東宝で製作されたことで数ある小津作品の中でも極めて特異な位置を占める。特に森繁がイイ。50~60年代の彼は全くもって上手過ぎる。特に加東大介との飲み屋での遣り取りはケッサク!あ、鴈治郎(二代目)の上手さは勿論云うまでも無いけどね。浪花千栄子の愛人も杉村春子の娘も各々溜め息が出る上手さ。こんな名脇役にも二度と出会えまい。ところで本作を通して小津が描きたかったモノ、実のところは彼のみぞ知る…なんだろうけど、個人的には戦後米軍占領下で根こそぎ否定された戦前の家父長(戸主)制へのオマージュではないかと思う。戦後民主主義によって次々と失われつつある戦前の日本の風習、コレを完全に消滅する前にフィルムに込めて残したい。そういう屈折したエコロジカルな視点が散見される。その意味で小津は(右翼などとは違った)真性の保守派であると言えよう。※因みに本作の読みは「こはやがわけのあき」であって「こばやかわ」ではないので、お間違えなきように…。 【へちょちょ】さん 9点(2004-01-07 14:42:08) (良:2票) |