2.《ネタバレ》 大方の出演者が上手な演技をしている中で、主人公の有森也実さんがそれ程でもない演技をしていたように思えます。(周りの達者な役者さんと比べるのは少々酷かもしれませんが…)
しかし、それが劇中の彼女の役とシンクロして、有森さんと小春の両方を応援したくなり、作品に入り込める良い要因になりました。
山田監督が意図した所なのか、偶然の結果なのかは分かりません。
緒方監督(岸部一徳さん)はロジックで、小倉監督(すまけいさん)は直感で、喜八(渥美清さん)は慈愛で小春に演技指導します。
馬の後ろ足の様な役をやっていた喜八が、難しいシーンを彼女に教える時に、役者としての引き出しが貧しい為に、秘密にしていた自分と小春の母親との過去を話すことによって、小春の素性が分かってしまうシーンは、胸が熱くなりました。
島田が「映画とは見る人の人生を変えてしまうような力を持っている。」と、言っていましたがその通りだと思います。
物語を語る事が出来る映画、演劇、本などは、前頭葉が発達してしまった人間にとっては、他人の人生を経験したり、夢や希望を抱く事も容易にさせてくれます。
私にとって本作はそこまでのものでは無かったですが、程良い喜怒哀楽を散りばめた質の良い話は、喜劇としては十分でした。
因みに、思想家カール・マルクスにも勿論兄弟はいました。
直近に起こった喜八の死を知らずに真っ直ぐに前を向き歌う、凛とした小春のシーンは、とても印象的でした。
小春個人に、この先の日本の映画産業を重ね合わしているような制作サイドの鼓舞と願望にも写りました。
その様な映画業界への批判や願望は御社の会議室でやって下さい、というシーンは何箇所か有りましたが、それらも含めて作品として昇華されていたと思います。
作品では死を単純に悲観的なものではなく、自然の摂理と捉えているようにも感じられました。全体的に人間関係の妙を丁寧かつ軽妙に情景として見せつつも、浪花節全開にならない山田監督の演出は、好感が持て非常に楽しめました。