1.《ネタバレ》 STING大好き様に粗方語り尽くされた感もあるが、私なりに本作をコメントしてみたいと思う。カルネ作品は初レビューなのでチョット緊張するけど(笑)。私はどんな作品でも役者の演技に引かれる性質(たち)なので中心はどうしてもソコに来る。本作キャストでの個人的なMVPは矢張り、悪魔を演じたジュール・ベリとなる。実際、ナチズムの理不尽さを体現し、ジルとアンナの純粋な「愛」に拮抗させる狡猾極まりないインパクトを生み出したのは彼の凄みを利かせた名演あってのコト。次いでドミニクに扮したアルレッティが秀逸。彼女のデッドパン(無表情)ぶりがユーグ男爵とルノーを両天秤に掛け、殺し合わせるに至る妖艶な魅力に絶大な説得力を放っていたと思う。ジルはアンナとの愛に目覚めるが、彼女は最後まで男を破滅させる悪女の道を貫いてピカレスク・ロマンの醍醐味というモノを我々に教えてくれる。本作でのドミニクというステップを踏んだからこそ「天井桟敷の人々」でのガランスに結実したのでは、とも思ったりする。レジスタンス魂を代表する主役カップルも勿論素晴らしい。特にジル役のアラン・キュニーのイケメンっぷりは「甘い生活」や「エマニエル夫人」での彼からは想像もつくまい。アンナを演じたマリー・デアも初々しいだけでなく、ジュール・ベリの怪演に一歩も退かぬ芯の強さを垣間見せ天晴れ。これら一連の演技を(新劇調のオーバーアクトを百も承知で)巧みに引き出したのが、見事にバランスの取れたカルネ演出とプレヴェールの格調高き台詞にあるとすれば、ましてやレジスタンス魂の最高傑作とも云うべき「天井桟敷の人々」への重要なワンクッションとするならば、本作は決して軽視さるべきではない!と確信する。