2.《ネタバレ》 中村錦之助泣く。ひたすら泣く。背景も何もわからぬ映画開始早々から、いきなり何やら込み入ったことになっておりますが、前半のエピソードが一段落するとき、そこには「母親」⇒「涙」という構図が現れています。そしていよいよ、母を訪ねて三千里。皆から冷ややかな視線を投げかけられているようなオバチャンに対しても、主人公忠太郎はひたすら優しい。こんなにウェットだと、本当の母親に出会った日には、もう大変なことになっちゃうよ。ってな訳で、忠太郎にとっては母親は母親であって、身分も境遇も何もナイ、と言いたいところですが、いざ見つけ出した母親の方はそうもいかない。誰とでもうまくやっていけそうなキップのいい忠太郎として描かれた前半に対して、まさかまさかの強敵キャラなのでありました。それまでのテンポのよさから一転、二人のやりとりがじっくり描かれます。そして「どうしてやくざに何かなってしまったのか」という母の一言、これは歩み寄りの一言にも聞こえるけれど、実は忠太郎のアイデンティティに関わる、触れてはいけない一言。忠太郎は去り、さらには母との絆を断ち切りヤクザの道に生きることを決意するかのように、また人を斬ってしまう。その後で母が彼を探しに来たって、もう会うことはできない、会わせる顔も無い。目をつぶり涙を流す忠太郎の顔が大写しになったとき、その涙はもう、母を想う涙ではなく、まるで、瞼に浮かぶ母の面影を洗い流す涙であるかのよう。映画にしばしば挿入される短いカットが、見事に感情をゆさぶります。