2.《ネタバレ》 世間ではめっぽう評判が悪いこの映画を、私はとても好きだ。評判の悪い原因をよく聞いてみると、殆どの人が、痛快なドンパチの西部劇を期待している。アホか。日本でだって、一部でファンがいるものの、今時チャンバラは流行らない。人間の社会がある程度成熟してくると、単なる痛快なだけの暴力映画が、全体的には受け入れられないという事だと、私は思っている。その代わりに日本でも政治的要素のある時代劇、リアルな時代物が出てきたりしている。いや、昔にも多少はあったのだろうけど。そういう意味で、この『ワイアット・アープ』、アメリカの若かった時代の突出した人物の伝記映画として、面白い。今からたった百年ちょっと前の、一つの国の中でこれほど暴力的な社会があって、しかもそれが不思議なバランスというか調和を持って、次第に今に続いているというのは、実に面白いではないか。その中で暴力的な法執行官として名を馳せた人物が、実は実業家として成功したいと思っていた人間で、内縁の妻を蔑ろにして、愛人を結局は妻にする。その長い人生を映像化した本作のクライマックスはやはり、有名な『決闘』シーンだ。そこの部分は、いろいろな事情が絡んでいるが、その大きな一つとして、ジョシー・サラ・マーカスとの愛を失いたくないという部分。若い頃、それはそれは愛していた若妻を失った悲しみの彼の、半分娼婦だった内縁の妻・マティを乗り越えて(踏み台?)、やっと手にした生涯の愛。それまで、いつも人から誤解されていた自身の生き方を、彼女は受け入れてくれた訳だ。その愛と自分と家族の尊厳をかけた決闘のシーンは、今までのどの(アープ)映画よりも、地味だがリアル。ここを変に創作でカッコよくしちゃったら、この映画の意味が無くなるものね。直前の酒場の親父とのやりとりが、泣ける。流れの中で描写されるのに、いきなり最初にあえて出すほどの名シーンだ。その時のワイアットが、テーブルから引きずるように持ち上げる銃の「物量感」が重々しい。これで生きたい訳じゃ無いがコレが無いと生きられない。厄介な時代だったんだろう。そんな時代に色々誤解されながら、ジョシーと80まで生きた保安官、良かったな。
基本的に大好きな話だからというものあって、9点!