8.《ネタバレ》 山中貞雄は何を成し、何をやり残し戦場に散って行ったのか。
この「人情紙風船」にはそんな山中貞雄の死を感じさせる描写が散らばっている。
生きるか死ぬかの博打の日々を送る新三、
士官先を求めて何度も頭を下げては断られ続ける浪人の又十郎。
それを取り巻く女たち。
何度袋叩きにされようとめげない新三、何度断られようと通い続ける又十郎。
そんな二人の物語が交錯していくドラマの厚み。
二人は「共謀」を図った。
一時でも良い、死んだって良い。どうせ明日は無いんだ。一瞬でもいいから何かを成してから死んでいきたい。
金でも地位や名誉でもない。
意地が彼らに行動を取らせた。
酒屋での宴会は最後の晩餐か。
死んだことにも気づかず逝った男、死んだか生き残ったかも解らない男。
皮肉にも山中貞雄は己の死と向き合ってこの世を去っていった。
だが彼の代わりに、この作品に出演した俳優たちは息の長い活躍を続けた。
まるで亡き監督の魂を受け継いだように・・・。