16.《ネタバレ》 『レクター博士が鉄格子の中からプロファイリングをし、推理する。』このスタイルが、やはりこのシリーズ一番のウリなのかもしれません。手負いの獣が危険であるように、鎖でつながれているほうが、レクター博士の狂気が滲み出るような気がします。
ですが、本題は、悲しき殺人鬼ミスターDの物語。
彼の犯した罪に同情の余地はありません。ですが彼の生い立ちは同情を誘うものです。
鑑賞者の心の琴線に触れるバランス感覚が絶妙な脚本。いえ、これは原作があるわけですから、原作が素晴らしいのでしょう。
リーバ・マクレーンという女性とのエピソードを通し、ダラハイドの善良性を前面に押し出す描き方は最早卑怯な感じすらします。
観客はいつの間にかダラハイドに感情移入します。そしてその一方で、いつ彼が暴走するのか、不安な気持ちがいつもつきまといます。
もともと人の心の闇を描くサイコスリラーが好きなので、好きなジャンルをこの完成度で仕上げられると、ため息しか出ません。
ただ一つ注文をつけるならば、犯行動機についてです。『幼き頃の虐待』という抽象的で曖昧な表現にとどめてしまっています。
標的となる家族の選び方の基準も、『自分の会社にビデオ製作を頼んだから』というだけのもの。
そうではなく、なぜあの二家族が標的にされたのか、それこそがこの作品で一番知りたかったことです。肝心の部分を描いてくれていません。ダラハイドの生い立ちと、彼が狂気に走った理由を、もっと明確に結びつけてほしいのです。
ラストは、ダラハイドがサプライズを仕掛けます。
エンターテイメントとしは成功でしょう。映画としては間違いなく盛り上がります。
ですが作品の格はどうでしょうか。
ラストの仕掛けによって、よくある娯楽サスペンスに成り下がってはいませんか。
ダラハイドが愛する女性を殺せずに、自殺して終わる。
美しく悲しくやるせないラストとして相応しいと思ったんですけどね。