1.《ネタバレ》 ↓の【movie海馬さん】のレビューを拝読し、レンタル店でDVDの【1979年:HDリマスター版】及び【21014年版】の両方を取り寄せて鑑賞しました。
まず前置きから。私にとって公開当時は、観たくても観られなかった作品です。
その前年、サンリオ製作の【親子ねずみの不思議な旅/チリンの鈴:1978年‐同時上映】は映画館で観ました。特に【チリンの鈴】は「ディズニーとは違う、日本だからこそ創れた作品だ」と子供心にも誇らしく思ったものです。しかし当時、私は小学校高学年。低学年の妹も一緒の家族での鑑賞でしたが、クラスで素晴らしさを伝えても「サンリオって小さい女の子向けでしょ。しかもアニメ映画なんて観に行って恥ずかくない?」とからかわれただけでした。
一方、当作品は、人形アニメ作品。当時から子供心に【人形アニメが、どれほど手間がかかるか。セルアニメと違い大量人員による分業には限界があり、コマ撮りは極めてパーソナルな作業になる:注…大人になってからの言葉に変換しています】と知っていました。「きっとサンリオは素晴らしい作品に仕上げたに違いない」…しかしCMの映像には【主役の二人を乗せて飛んでいく馬車を“キキとララ”が見送る場面】が映っていました。私は「映画館へ観に行ったら“あのお兄さん、おかしいんじゃない?”と、自分より年下の女の子やそのお母さんに、白い眼で見られるかも…」と腰が引け、観るのを諦めました。
その後、TV放送されたようですが、機会を逸してしまい…さらに歳月が流れて我が子とサンリオ・ピューロランドへ行ったときには、園内の劇場ロビーに、クララ達の人形が飾ってあり「サンリオにとって、今でも大切にしている作品なんだ。それなのに、未だに観ていないなんて…」と後ろめたさが、ずっと残っていたのです。
こうして41年の歳月を経ての初鑑賞でしたが、感動しました。可愛らしい人形達が、見事に創り込まれたセットの中で、美しい光の演出と凝ったカメラワークで動く!動く!…と、ワンカットワンカットから目が離せませんでした。
特に闇を基調とした【時計の中/ネズミたちの根城/森】といった場面は、当時のフィルムの感度を考慮すると【挑戦的】だったのでは…と推察しています。現在の人形アニメはデジタル技術により、撮影のたびに一コマ単位で再生し直し、動きを確認・補正(撮り直し)しながら作業を進めることできます。しかし、この時代はフィルムの一発撮り。現像しなければ、仕上がりはわからない。テスト撮影をして臨んだでしょうが「背景はうまく感光したけど、クララが黒ずんだ/くるみ割り人形の赤い色が上手く発色していない」といったことで撮り直しに…といったこともあったかもしれません(的外れならスイマセン…)。
一方、ジプシー占いのおばさんは、文楽人形をアレンジしたものでしょうか?…コマ撮りとは異なるゆったりした動きが、異様な存在感を醸し出して迫力があると感じました。
また【マリー姫の呪いを解くために国中から集められた名士達が、アピールするシーン】も印象深かったです。当時の芸能界を彩った有名人の方々が【声の応援出演】として声をあてておられます。しかも、姫の父親である皇帝に「名士と言われる人達も、結局は独りよがりの者ばかり…」と言わしめるためだけに7分間も費やして…。場面の位置づけは【お遊び的】なものですが、録音した出演者達の言いまわしに合わせたアニメートは大変だったと思います。しかもこの場面の人形達に、私はとても親しみが沸きました。それもそのはず。観終わった後、DVDの解説で、監督の中村武雄さんやアニメーターの真賀里文子さんは、私が小学校の低学年時代に、学校や公民館で上映された短編作品【花ともぐら:1970年/てんまのとらやん:1971年】に携わった方々だと知りました。地道に人形アニメをつくり、私達を楽しませて下さったお二人を始めとする数多くの方々に感謝しないではいられませんでした。
さらに、クララが、今どきの「自ら運命を切り開く戦うヒロイン」でなかったのも新鮮でした。傑出した力は無くても、懸命にくるみ割り人形を思いやり、守り抜こうとする…こうした“内なる強さ”を秘めたヒロインだって、私はまだ現在でも“あり”だと思います。
さて、採点ですが…当時の人形アニメの技術の粋を結集した力作でしょうし【夢のようで夢ではないような…】というこの物語のシチュエーションにも人形アニメはピッタリで、現在でも色あせたものではないと思います。スタッフの皆さんへの敬意を込め10点を献上します。
おそらく「CGでやれば簡単じゃん」という方々もおられるでしょうが…是非、【手作り】の情熱を感じていただける方々にご覧いただきたいです。