3.家族みんなで気軽に楽しむエンターテインメント作品とはまるで異なる、宮崎駿監督が自らの創作人生を凝縮させたような“シュール”なアニメ映画です。
これまでの『トトロ』や『ナウシカ』のように語りやすいあらすじやわかりやすい構成を期待すると、きっと戸惑うことでしょう。
しかし、その不可解な雰囲気こそが本作の大きな魅力であり、“死生観”や“輪廻”をファンタジーとして描き込むことで、観客に深く考えさせる余白を与えているのです。
本作の舞台には、戦争や事件といった現実世界の痛ましい歴史がさまざまなメタファーとして散りばめられています。
それは単に大昔の出来事として語られるのではなく、生きるとはどういうことか、死と向き合うとは何かという普遍的な問いへとつながっていく仕掛けに思えます。
例えば、主人公が異世界へ誘われる場面も、一種の“死者の国”を思わせる描き方がなされるなど、生と死、そして再生が曖昧な境界のなかでぐるぐる回り続ける構造が印象的です。
だからこそ、この映画は一度観ただけではすべてを理解するのは難しいと感じました。作品内にちりばめられたヒントを手繰り寄せ、何度も考察を重ねる行為そのものを楽しめるともいえます。
わからない部分を想像で埋め合わせてみたり、戦争にまつわる歴史背景や宮崎監督自身の人生観を重ね合わせてみたりと、
謎解きのような読み解き方もできますし、純粋に不思議なファンタジー世界として眺めるのも良いかと思います。
さらに興味深いのは、本作が“子ども向け”ではないとされながらも、少年が主人公であることです。
少年が受け継がなければならないもの、放棄しなければならないもの、その葛藤は観客一人ひとりの生き方に直結します。
宮崎監督自身の少年期や、盟友・高畑勲監督との想い出が投影されたともいわれるキャラクターたちは、固有のエピソード以上に“人はどう生きるべきか”という原点的な問いを浮かび上がらせるのです。
アカデミー賞でも評価された映像の美しさ緻密さは、子供にもインパクトのあえるファンタジーな画像をストーリーにこだわらずに心に残すことも可能ですので大人だけの映画でもないのです。
だからこそ私は、「わけがわからない」という理由でこの作品を遠ざけてしまうのはもったいないと思うのです。
宮崎駿監督が集大成としてアニメという表現を使い、あえて常識的なストーリー構成をこぼれ落ちるほど詰め込んだ結果、多層的な謎と象徴が生まれたのでしょう。
観客がそれぞれの答えを探す喜びを味わうための“余白”ともいえます。
ぜひ劇場や配信でこの作品と向き合い、自分なりの“答え”を探してみてください。
たとえ答えが出なくとも、その旅路こそが宮崎駿監督の問いかけに応える一歩ではないでしょうか。
私はファンとして、そしてひとりの観客として、この未知なる冒険をより多くの人に体験してほしいと心から願うのです。