1.「切腹」の小林正樹監督と脚本の橋本忍コンビでこれに勝るとも劣らずというほどの見事な時代劇。
モノクロの端正な映像も、侍社会の不条理や非情さを見事に描いた脚本も双子のように似ている。
出演者では三船は無論のこと悪妻の大塚道子、翻弄される嫁の司葉子、悪役の神山繁、
三船の友人で後に決闘することになる仲代達矢などみな重厚で素晴らしかった。
(唯一バカ殿が人のよさそうな村松達雄なのは惜しいが大した問題ではない)
三船が演じる侍は悪妻に耐え続けてきた苦労人。息子には優しくて気立てのいい嫁をと望んでいたのに、なんと出産後の殿様のお手つきを押し付けられる。
嫌々承知して結婚したがいちは意外にもいい嫁で、息子の加藤剛とも仲睦まじく娘も生まれる。
それが跡継ぎがいちの産んだ息子に回ってきたため彼女を返せと言ってくる。
翻弄されるいちや家族は親戚の命運まで巻き込んでの決断を迫られる。
上役の有無を言わさぬ身勝手さや不人情ぶりに対し、人として当然の主張をする舅と夫、物のように扱われる哀れないち達が気丈に抵抗し道理を主張する展開に引き込まれてすっかり彼らに感情移入させられる。
三船の舅は自らの愛のない夫婦に比べ息子夫婦の愛情の深さに打たれ彼らの理解者となるが、深い人間味を見せて素晴らしいし孤軍奮闘する殺陣の見せ場もある。
いちは非情な運命に翻弄されながらも誇り高く自己を貫く強い女性で、司葉子はこれを見事に体現していた。
私はむしろ切腹より好きですが見る人が少ないのは残念でもったいない。これはぜひにとお勧めしたいです。