2.ハリウッドに小津を褒めちぎる映画人は多いが、ここまで本質的な意味で小津の精神を正しく踏襲した作品も珍しいのではないだろうか。いかにもアメリカ的なシチュエーション・コメディのスタイルを取りながら、人の親であることが宿命的に彼らに背負わせる身を抉るような苦悩の数々、人生の最大の喜びでありながら同時に全ての苦しみの源でもある我が子という存在、その絆の持つ痛みを多彩な顔ぶれで描いたこの作品は、あくまでもポジティブに、しかし辛辣に人生というものの核心をさらりと突いてみせる。特殊学級入りを勧められた自閉症気味の息子に惜しみない愛情を注ぐ夫婦、思春期を迎えた長男と反抗的な長女に手を焼くシングルマザー、突然黒人の「息子」を連れて帰って来る放蕩息子と彼を見限れない老父。それぞれがさりげなくアメリカの「現代」を象徴するようなバックマン家の人々は、異端者としての互いを認め合うことでアメリカの理想とする家族像を築き上げ、幾多の苦労と数え切れない悲しみに満ちた膨大な日々の積み重ねの中でごくたまにほんの一瞬だけ訪れるささやかな幸せこそ「人生」なのだと言い切る。ダイアン・ウィーストにハズレ無し。お約束の草野球も、ロン・ハワードの手にかかるとこれぞ重要アイテムとイヤミなく受け取れるから不思議だ。しかしこれは数あるハワード作品の中でも最も辛辣な部類に属するのではないか。白塗りでないトム・ハルスが見られる数少ない貴重な作品の一つでもある。この人なんでぱっとしないんだろうなあ、いい役者なのに。