1.この世に完全な悪人も善人もいない、あるのは相手との関係性と、ただほんの僅かな運の良し悪しだったりする。
「俺、なんででこんな人間なんやろ」という妻夫木君も、「あたしはそんな人間じゃないっ」と絶叫する満島ひかりちゃんも、同じように今という不安を彷徨っていたのだろう。
よくよく胸に手を当ててみたら、妻夫木の不器用さも、深津のみっともなさも、満島の計算高さも、岡田の虚勢も、余貴美子の身勝手も、松尾ズズキのあくどささえ、全部自分自身に当てはまるではないか。
そんなヒリヒリする思いに加えて、シーンは雨、雨、雨、と、閉そく感と胸苦しさをかきたてる。
なんと完成度の高い映画でしょう…と思ったら、フラガールの李監督なのですね。
で、原作者が脚本も書いてらっしゃる。なるほど。
難しいテーマの作品を、長い尺にも関わらず、巧みな場面転換により飽きずに一気に観せてもらいました。
人物の背景も説明臭いセリフではなく、映像できちんとみせてくれる。
そして、キャストが揃いもそろって熱演。
一人ずつ褒めたらキリがないし、誰か一人をとりあげたらもう全員褒めなくちゃならないほどだけど、強いて、強いて言うなら満島ひかりさんは出色ですね。
観賞後は救われたような、やるせないような、複雑な思いが残る。傑作と言って良い出来だと思う。