1. 第二次世界大戦、ニューギニア戦線で「死亡」したとされる軍曹。その妻は戦後二十数年経っても軍人恩給など国からの援護から夫が対象外とされていることに疑問を抱く。厚生省に問い合わせると、彼は「戦死」ではなく「刑死」だったために援護を受給できないという。そこで彼女は夫と同部隊に属していた生き証人たちに真相を確かめにいくが、「敵前逃亡」「同僚殺害→その肉を食糧として売る」「理不尽な上官を殺害」・・・と次々に食い違う証言が現れ、まさに芥川龍之介の『藪の中』の世界に。
そんなサスペンスタッチで戦争の不条理をスリリングに突き付けるとともに、同じ「皇軍兵士」でも陸軍刑法に基づいて処刑された者(しかもその罪状は問わない)は国からの援護を受けられないという援護行政の矛盾を浮き彫りにする。
主演の左幸子の鬼気迫る演技の秀逸さはもちろんだが、自分の大好きな怪優・三谷昇の見せ場がふんだんになるのも嬉しい。
ゴマンとある戦争映画のなかでも、シリアスでグロテスクな描写が目を引くが、作品に貫かれた「戦争への憎悪」というメッセージが明瞭なだけに不快感はない。
新藤兼人の脚本の素晴らしさもさることながら、監督の深作欣二はこの翌年から東映ヤクザ映画の商業路線に浸かっていくわけだが、本当はこういう方向の作品をもっと作りたかったのではないか。
凄まじく迫力をたたえた反戦映画である。