1.《ネタバレ》 大人になった現在の映像を落ち着かせたカラートーンにし、過去の出来事を鮮明な映像にした事により、描くべきメッセージが強く前に出ていた。細部までこだわった演出は素晴らしく、多々私の目をひいた。例えば、サクが放心した状態で歩いている横を、明るい祭りの列が交差する場面。残酷なようだが「自然に時は流れている」と感じさせる。亜紀がピアノを弾く場面での雨の日の暗さが、より「切なさ」を伝えてくれたり、台風、ウオークマン、飛ばない飛行機など、過去と現在に設定した「同じキーワード」を盛り込ませることにより、いくどなく今昔を往復する物語を違和感なく見せてくれたりなど・・・。
だが、この作品の最も評価すべき所は、サクと亜紀の立ち居値にあると思う。常に、亜紀はサクより数歩先を歩んでいて、「死」という現実に恐怖しながらも「理解し予感」している。対してサクは、「ありえない事」を受け入れられず、ラジオに「元気になった」といった嘘の手紙を投稿したり、若さゆえの行動で飛行場へ亜紀を連れ出してしまう。お互い「愛情」の比率は同じであっても、亜紀とサクの「現実」の比率は違っていたのだ。サクが、等身大の高校生だからこそ、素直に共感できたんだと思う。
最後に、オーストラリアの地で、最後の亜紀のメッセージを聞くサク。「あなたは、今のあなたを生きて」。全ての答えがこのセリフに詰まっている。聞き終えたサクは、彼の中の「世界の中心」で、亜紀の思いを大地と風に舞わす。この映画が「哀しい物語」だけでなく、「再生の物語」でもあることに、改めて感動させられる・・・。私の映画鑑賞史上、最も泣いた作品。