1.太平洋戦争末期、特攻隊の悲劇を取り上げた作品は数多くあるが、本作は実話に基づいて作られているだけにより一層切実なものとして胸に迫ってくる。さらに派手な戦闘シーンや凝った特撮など一切使わずに、戦争の悲惨さと平和の願いを描き切ることに見事成功している。また監督神山征二郎の誠実な人柄が作品によく出ており、しかも渡辺美佐子や仲代達矢を筆頭に、各実力派俳優たちの情感が込められた演技も手伝い作品そのものの完成度もかなり高い。物語は、およそ戦争とは無縁に映る平和な余りにも平和な現代の日本と対比して、爆死することを義務付けられた特攻隊員の姿と戦争の不条理が次第に浮き彫りにさけてゆく。奇跡的に生き残った特攻隊員の語るに語れない地獄のような苦しみ、若き命を捨て駒同様に扱う冷血非道な参謀や軍指令部などなど。《ネタバレ》やはり本作では、ラストに尽きるでしょう。引っぱるだけ引っぱって余りにも衝撃的なシークエンスが、このラストに用意されていたのである。悲哀に満ちたベートーベン作曲「月光」のメロディーが類稀なる効果を収めており、特攻隊員の悲劇と戦争の不条理性を見る者へ強烈に訴えている。その瞬間、彼らは何を思い何を願ったのであろうか。このラストシーンは涙なしではいられなかった、というよりもうボロボロになってしまった。少々くどいようだが、この大どんでん返しとも言えるラストを迎えるまでじっと我慢して見て欲しい。この戦慄すべくエンディングシーンで評価は大きく跳ね上がり、作り手はなぜ坦々とストーリーを進めてきたのか分かるはずです。今の若い世代に、いろんな意味でぜひ見て欲しい名作です。