1.《ネタバレ》 間違えないでほしい。この映画で描かれるものは、人間の愛などではない。
美談でもなんでもなく、描きつけられるのは、ひたすらに人間の闇でしかないと思う。
陰影が印象的な映像世界が物語るままに、人間は暗い影の中で、たった一瞬の輝きを求めて生きるしかないのか?
否、そんなことはない。たとえ光が過ぎ去っても、再び光が照らすことはあるはずである。
逆に言えば、どんなに素晴らしい輝きを手に入れたとしても、それで満足して残りの人生を手放すようなことをしては、その輝きの価値すら無くなる。
主人公のボクサーの残りの人生は、光とは程遠い辛く苦しいものかもしれない。
でも、たとえそうだとしても、生きつづけること自体が、燦然たる輝きとなるのではないのか。
この映画で描かれることこそ“リアル”だという考えは、決して間違ってはいない。
だが、これが映画だからこそ僕はあえて言いたい。
「まったくもって、耐え難い結末だ」と。
「人生を諦めること」を美化したこの映画は、あまりに異質で罪深い。
だが、大前提として映画の表現は自由である以上、近年一貫したテーマをもって技術的に質の高い作品を連発しているイーストウッドの監督力が、確固たるものであることは間違いない。
ただしかし、この作品をその年の“最高映画”と堂々と位置づけたアメリカという国は、愛を、その行き着く先を、見失っているのではないだろうか。