1.《ネタバレ》 当時まだこの世にいた阿部定本人を出演させたというのがウリ文句の作品ですが、それ以外はなんの見どころもないというのが正直な感想。その阿部定は短時間の路上インタビューをドキュメンタリー・タッチで撮っただけ、同じ阿部定事件を題材にした大島渚が『愛のコリーダ』で使った手法の方が遥かにインパクトは強いと思います。いちおうオムニバス形式になってますが、とりあえず阿部定事件の企画があってその他は付け足しという感じで撮影されたような気がしてなりません。だいいち、『明治・大正・昭和』と銘打っておきながら『大正』の事件がないといういい加減さ、これぞ「看板に偽りあり」そのものです(笑)。 いちおう“女性が犯人の殺人事件オムニバス”という形式になっていますが、その中に小平義雄の事件が入っています。これは有名な女性連続殺人事件でもちろん女性が被害者なのですが、「この事件は女の魔性が誘発したものなのか?」なんていうナレーションを入れてごまかしてますが、これはちょっとひどすぎでしょう。こんなソフトポルノまがいのネタにされて、遺族から抗議はなかったんでしょうかね。現在の若者には想像つかないでしょうが、60年代の日本なんて民度の低い何でもありの時代だったんですよ。 吉田輝雄が狂言回し的な役柄の監察医として出演してますが、冒頭で自殺した妻の検死解剖をするところから始まり「なぜ妻は自殺する羽目に陥ったのか、犯罪に巻き込まれたからではないか?」と過去の事件の資料を検証するというストーリーテリングになっています。妻の自殺の謎を解明するのになんで過去の女性犯罪を調査するのかが謎ですが、そっちの解明は全く忘れられてラストの「けっきょく妻の自殺は謎のままだ」というナレーションで閉める、これぐらいいい加減な脚本もちょっと珍しいぐらいでした。石井輝男、酔っ払って脚本かいたのかな?