1.《ネタバレ》 自分の真の願望を台詞で一言も発さぬまま、被写体として愛する人にレンズ越しに見つめ続けられている小西さんの苦しげな芝居は、この作品で唯一エモーショナルで緊張感をもって観れ、とても心に響いた。彼女を救ってあげたいような、守ってあげたいような、そんな願望に苛まれた。映画内の人物にこういった感情を向けられる映画体験というのをぼくはいつも求めて映画を観るのですが、この作品における最大のクライマックスはここで、それが物語全体の約7合目でやってくる。もっと掘り返せばそのきっかけとなるシーンは榮倉奈々さんが主人公の彼に、その事実をぶつける所から始まる。それは全体の約半分、映画が始まって40分も経ってから。それ以前の彼は受動的で、プロのカメラマンになりたいという願望はあるものの、この作品内での一本筋の通った葛藤を生むような願望は抱いていない。つまりこの作品そのものが「どこに向かおうとしている物語である」という前提も無く、ただ穏やかな風景や人々を描写して行く。浮気を気にする男が主人公に尾行を頼み出て、それが原因で姉が嫉妬して、それを榮倉さんが指摘して、姉と抱擁を交わした事で、男を説得する。なんだこの話?おばけのエピソードが「死」そのものと向き合う物語に進んで行くかというとそうではなく、血縁のない兄弟の「社会的に許されない愛」に進んで行くか?というとそうでもない。面白そうなエピソードを細切れに寄せ集めて、それら一つ一つと主人公が真摯に向かい合う姿も見れず、葛藤も無く、あるいは不満も無く、緊張感も高揚感もないこの映画は脚本の時点で誠実さに欠けているような気がしてならない。 せっかくなら小西さんのこれまでの葛藤や、その後に待ち受けるであろう苦悩の日々や対立を是非観たかった。古典的ではあるけれど、そっちの方がこの作品よりよっぽど満足感は得られたと思う。