14.《ネタバレ》 東京のとあるバーの入口で、男性が死んだ状態で倒れていた。ある警察官が容疑者としてあがり取り調べが行われるが、その最中に彼が突然逃亡。大勢の刑事が必死に追うものの、警察官は飛び出してきた車に轢かれて亡くなってしまう。彼に対して違法な取り調べが行われていた容疑で、その責任者であった本作の主人公・室井が逮捕される。その背後には警視庁と警察庁の権力争いがあった…。
これまで『踊る大捜査線』にはほとんど触れたことがなかったが、2024年10月にテレビドラマ版の再放送があり、それと並行するように『THE MOVIE』『同2』『同3』・本作もノーカット放送された。かなりの話題作だったから観てみようかという好奇心に、今後はこんな機会もほぼないだろうという気持ちが重なり、よく似た立場の妻とテレビ版全話および『THE MOVIE』『同2』を視聴、その次の日に本作を視聴したのだった。
真面目で無口、堅物な室井の性質や性格を反映してか、『踊る大捜査線』のスピンオフとは思えないほどの暗いトーンで物語が進む。フィルムの色味も演出も固くて重苦しく、シーンによってはまるでドキュメンタリーのようでもある。警視庁と警察庁の静かな争いは舞台劇のようでありながらどこか生々しい。陰影を多用した演出はインパクトこそあるがリアリティに欠ける側面もあり、まるでATG映画を観ているようだ。どこか飄々とした雰囲気を持つこれまでのシリーズを観てきた者からするとかなりの違和感があり、当時、『踊る~』シリーズだと思って映画館に行った人はかなり面食らったんじゃないだろうか。
また、陰鬱な描写を積み重ね、やたら粘っこく物語が進んだわりに、事件そのものはシンプルであっさりと終了。拍子抜けの感があった。
ところで、本作の視聴後に強く感じたのは、本シリーズの魅力は、キャスティングそのものや、彼らにつけた演出によるものが大きかったのだということだ。
室井はもともと不器用だが、本作では物語の中心となるためか、その不器用さや無口っぷりが前に出過ぎてしまい、物語を停滞させてしまっている。彼の険しい顔も、これまでのシリーズにはものまねタレントがよく真似をするような剽軽さのようなものがあったが、今回はひたすら仏頂面なだけで表情のバリエーションが乏しく、感情移入しにくい。そもそも、いわれのない罪に問われている人間があれほど落ち着いていられるのだろうか。
主要な刑事を演じた哀川翔の甲高い声は聞き取りにくく、おそらく視聴者の気持ちをもっとも代弁していたであろう彼の言葉がはっきりと聞こえないのは致命的だったように思える。
田中麗奈演ずる弁護士は、走り方が不格好で話し方にも品がなく、およそ弁護士らしくない。本作のミスキャストナンバーワンだろう。
本作の拾い物は、桜井杏子を演じた木内晶子だろうか。一見おとなしく聡明そうだが、口を開かせたらただの身勝手なバ○だったという役はとても気味悪く、そして恐ろしく感じた。本作で彼女の印象が固定されてしまったのではと余計な心配までしてしまったくらいだ。