3.《ネタバレ》 有名な原作。改変や補追が多いが、全体的に人物の性格や行動に一貫性がなくなってしまっているように思える。
室田儀作社長は後妻、佐知子の過去を調べ、元パンパンだったという事実を知ってからも彼女を愛し、彼女が殺人犯と知ると、その罪をかぶるため拳銃自殺する。しかしそれ以前の社長は、従業員を情け容赦なく馘首する経営者であり、水商売の女給達を家に呼びこむ女好きであり、妻との約束は忘れるし、妻の政治活動を冷笑していた。あまりにも違いすぎる。
佐知子が娼婦になったのは、戦争で両親を失い、自ら糧を得る必要に駆られるた事と弟の学資を稼ぐため。ところがその弟、画家になったはよいが、昼間から酒を飲んで目つき鋭く、不気味な雰囲気で登場。何故か姉の肖像画を制作中。それも大邸宅なのに応接間をアトリエにしているという不自然さ。弟は事件に絡まず、後半普通のキャラに。禎子は終始慎ましい態度をとるが、最後では演壇の佐和子に向かって「マリー!」などとアジる。◆不自然な点もある。憲一の兄が死ぬ場面。前のめりに倒れ込むのに、次のシーンでは後ろ向きに障子ごと倒れる。本多の”立ち往生”も疑問。女性に包丁で背中から一突きされただけなのに、体を貫通して壁に串刺しになったような印象。その前に勝手に留守宅の座敷に上り込むなと言いたい。憲一の兄が佐知子に「田沼って女、米軍相手のパンパンじゃなかったかと思うんですよ」と言うが、その根拠は何か?田沼とは一度会っただけである。実はホームズ並みの推理能力の持ち主だったのでは?惜しいことをした。佐和子が憲一を突き落す時「このまま背中を押せば誰が見ても自殺……」などと心中を縷々披歴するが、総て観客にはわかっていることで蛇足そのもの。映像で感情を伝えるのがプロ。◆原作との最大の違いは、佐和子の運命、苦悩をクローズアップしている事。戦争被害者の立場を強調し、運命に翻弄される弱い女性を演出し、初の女性市長誕生のために奔走する姿を描く。狙いは分るが、細部に不自然な点が多く、彼女の苦悩は伝わってこなかった。