1. 戦後の日本の闇の部分を描いた小説を映画化したものであるが、真実味を増そうとするあまり、ドラマの部分との違和感がありまくり。役者が頑張るほどせっかくの素材が嘘っぽくなってしまう。
主人公の宇野重吉はそのひょうひょうとしたキャラと抑えた演技で、まあ我慢できるが、他の役者を絡めたドラマ的なシーン、映像表現がシナリオと全然マッチしていない。
計画性も組織性もく、数人の憤りあるいは興味だけで、警察や米軍にまで圧力をかけられる巨悪に対して立ち向かうという点で、真実味に欠け、結局巨悪に何の痛手も負わせておらず、謎解きの過程だけ見せて緊迫した駆け引きもない点で、ドラマ性も欠けている。
ドラマチックにするなら、個人個人の動機をしっかり描き出したり、理屈抜きに感情移入できる描写をすべきだし、ドキュメントタッチを狙うなら、中途半端な心理描写や映像描写は不要で、もっと淡々と第三者的に調べていく様子を描写すればいい。とにかく、どっちつかずの印象。
おそらく監督は、巨悪に対するどうしようもない憤りを訴えたかったのだろうが、ドラマ的な表現の方向が、その訴えをスポイルしている。
ドラマ的表現をとことん追求してもしっかりとメッセージを訴えられる映画、あるいは、淡々とドキュメントタッチで描写してもドラマ性のある映画というものを作ってこそ、真の名作になるんじゃないかと思う。
「謀殺下山事件」でも、同じような印象だった。俺、熊井啓監督とは相性悪いみたいだ。