1.元はニコラス・ウィンディング・レフン監督、ハリソン・フォード主演で製作される予定だったものの、レフンが離れたことからポール・シュレイダー監督、ニコラス・ケイジ主演に落ち着いたという本作。メンバーのグレードが下がったことの影響は作品にはっきりと表れていて、「もうちょっと何とかならんかったかなぁ」という結果に終わっています。
まず、ニコラス・ケイジがミスキャスト。主人公の設定年齢とケイジの実年齢があまりにかけ離れているため、ドラマへの感情移入が難しくなっています。50代になったばかりのケイジではまだまだ若々しくて、死の迫ったヨボヨボの老人が国際テロ組織に潜入するというサスペンスがまったく表現できていません。銃を撃つ時の立ち姿なんて『フェイス/オフ』の頃からさほど変わっておらず、あれだけシャキっとアクションをこなされると、作品の趣旨を見失いそうになります。他方、かつてのジャック・ライアンであり、現在は小走りするだけでも「大丈夫か」と心配になってしまうハリソン・フォードが主人公を演じていればどれほどハマっただろうかと考えるにつけ、このキャスティングが残念で仕方ありません。
ポール・シュレイダーの演出も、相変わらず垢抜けしません。脚本家としては一流でも監督としては残念なことの方が多い御大ですが、本作についても主題を効果的に描くということができていません。健忘症で怒りっぽい主人公が、たまに目的そのものを忘れながらも私怨からテロリストを追いかける様は、対テロ戦争を戦う現在のアメリカ合衆国の暗喩なのだなぁということは分かるのですが、「だから何?」という、暗喩の先にある主張がよく伝わってこないので、意義のある鑑賞にはなりませんでした。作品の要となるような印象的な見せ場も作れていないし、ドラマとしてもアクションとしてもまるで見所のない作品となっています。監督は、スタジオから作品を取り上げられて勝手に編集されたことを嘆いていましたが、出来上がったものを見る限りではそもそも高いポテンシャルがあったようにも感じられず、この出来であれば監督自身が仕上げてもスタジオが仕上げても、どちらにしても大したものはできなかったのではないかと思います。