1.《ネタバレ》 「es」は見たことはあるが、面白かった以外あまり記憶には残っておらず、この実験に対して思い入れはない。本作にもそれほど興味はなかったが、『人間の本質』のような“狂気”がみられるかもという期待があり、鑑賞することととした。もちろんアカデミー俳優の共演ということも大きい。
確かに衝撃的な内容は描かれているものの、全体的には物足りない仕上りとなっている。表層的な部分(暴力的・肉体的)で満足してしまい、深層的な部分(心理面・精神面)に対する圧迫というものがそれほど感じられない。過剰な騒ぎが巻き起こされているため、リアリティもなくなっており、ハリウッド映画らしい大げさなものとなっている。正常な人間が狂っていく様、理性が崩壊していく様、正常な人間が虐げられて屈服していく様など、本作でも描かれているが、これでは十分とは言い難い。
どこか単純化されすぎており、人間らしい複雑さが足りないのではないか。
本作は正常の人間ではなくて、もともと異常があった者の集まりになっている。
また、多くの囚人、多くの看守役がいたにも関わらず、目立った者はそれほど多くない点も面白くない。もっと個性的なキャラクターがいないと盛り上がるものも盛り上がらない。ウィテカーは狂った人間を熱演していたが、まだまだ物足りない。ブロディも頑張っていたが、この仕上りでは“ヤラレ損”ではないか。
ハリウッド映画はやはりヌルいのかもしれない。
ラストの展開も全てを物語っている。
殺し合いをやっていたはずなのに、シャッターが開いたら、全てお仕舞い。スーツなどに着替えて、金を貰って皆で同じバスに乗って普通にご帰還というわけにはいかないのではないか。人が死んでいるということを分かっているのだろうか。
予定通りにインドに行って、恋人と抱き合ってエンディングなど、ヌルいと言わざるを得ない。もし精神的に追い詰められたら、インドに行く余裕もなければ、恋人と向き合う余裕もなくなるだろう。
一番怖いのは、看守側でも囚人側でもなくて、この実験を止めようとしなかった主催者側ということだろうか。『暴力行為があったら即終了』というルールを無視して、人間が狂っていく様を楽しんでいたとも取れるようにはなっている。
監視カメラを多用して、その辺りをアピールしているようにも思えるが、主催者側の心理面に対して、観客が深く感じ取れないのはもったいないところだ。