1.《ネタバレ》 シリーズの43作目。寅さんは本作から年1回、お正月のみの上映になったそう。渥美さんの体調不良のためで、映像を観る限りでは、まだまだ元気そうに観えます。もう完全に満男と泉の恋物語で、寅は脇役になってます。シリーズ初の、前作からの明確な続き話となっていて、寅率を薄めて満男率を高めた結果が本作です。前作『ぼくの伯父さん』からは作品内の世代交代として、上手にバトンタッチが出来ていたと感じましたが、本作から感じたのは足止め感でした。
作品内の世代交代(寅→満男)を狙う反面、本作が、古いファン向けなのか、新しい客層向けなのか、どちらの層に向けた作品かが、中途半端に思えました。作品の中心は若者の恋だけど、いつもの寅さんを観に来た古いファンはあまり興味ないと思うし、新しい層はオープニングの夢に古臭さを感じたことでしょう。
前作から1年も経っていて、あの若さでどっち付かずの交際が続いていて、二人の仲は相変わらず表面上の付き合いに感じるし、以前満男が感じてた「汚さ」もどこかに消え去った感じがして、なんか引き伸ばされてる感じです。
引き伸ばしと言うと、車窓の景色とかお祭りの山車とか、風景映像が普段より多めに感じられたのも、ドラマが少なく感じた要因の一つかもしれません。
ダブルマドンナも前作と同じ顔というのも工夫が感じられません。せっかく宮崎美子が出ているのに、完全に脇役なのも残念。前作の戸川純と同じポジションだったのかな。体調的に寅の恋をじっくり描くのが厳しかったにせよ、礼子と寅の距離を縮める手段として、寝台車でも旅館でもお酒を入れて触れ合わせるのは、あまり褒められた筋書きとは思えません。礼子はスナックのママなので、仕事の延長にも観えてしまいます。
博とさくらが、たった1作で付き合って結婚して子供を産んだ事を考えると、全然進んでない満男の恋と、寅とスナックのママとの触れ合い。この時の制作陣は『男はつらいよ』というシリーズの延命を意識しすぎていたのかもしれません。
本シリーズは、渥美さんの人生そのものだと思うから、続けることはもちろんですが、一つの作品を大切に創ることも大事な事だと思います。