1.《ネタバレ》 「言っていることは分かるけど、結局何が言いたかったの?」という映画。
ジャーナリスト魂を描きたいというよりも、「戦犯をCIAや国連は野放しにしている」という事実を伝えたいとしか思えない内容だ。
フォックス(実在のカラジッチをモデルにしている)はセルビアの英雄と目されている人物であり、そんな人物にアメリカのCIAが手を出したら、国際情勢が混乱するというのは明白だろう。そういった微妙なバランスが存在すると思われるので、CIAは手を出したくても手を出さない、手を出せるけれども手を出さないという政策的な判断をしているのではないか。ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争の背景を詳しく知らないので、偉そうなことは言えないが、彼が大虐殺に関わっていたとしても、彼を捕まえることで「万事解決」という単純なものではないはずだ。本作を見る限りでは、ボスニアには紛争の傷跡・悲劇の爪痕が色濃く残っているようであり、火種を再燃しないということに専念しているのではないか。
また、ドキュメントで行きたいのか、フィクションで行きたいのか、やや中途半端となったのも大きな問題か。トンネル後のストーリーは完全なフィクションと思われるが、本作のフィクション部分がかなり幼稚だ。ジャーナリストはあくまでもジャーナリストであり、警察でもなければ、CIAでもなく、ましてや正義のヒーローでもない。
「彼に会って虐殺の真相や彼の信念をインタビューしたい」というものならば納得できるが、「何の策略や計画もないのに彼を捕まえたい、恋人を殺された復讐をしたい、金が欲しい」という内容に納得できる観客は少ないだろう。
何とか面白くしようと思い、脚色をどんどんと加えていくうちに、大切にすべき方向性を見誤ったような気がする。
見ている最中は、「ひょっとして、こいつらジャーナリスト魂なんてものは持ち合わせておらず、ただただ生死の狭間で体験できる独特のスリルを味わいたいだけじゃないのか。戦争や紛争がなくなった(実際にはまだまだ絶えないが・・・)ので、ただ危険地域に足を踏み入れたかっただけじゃないのか」と思っていたが、そういった意図もなさそうだ。
題材的には面白そうなのだが、「ジャーナリスト魂」を感じさせる内容になっていないのが残念だ。彼らは危険地域にわざわざ近づく、ミーハーな人間と同じではないかと思ってしまう。