5.ここ数年の“彼”の作品に対しては殆どすべてに共通して感じることだが、この小心者の劇作家は忙し過ぎるのだ。
数年前に原作小説が書店に並んだ時の期待感はよく覚えている。
三谷幸喜が描く時代劇、それも“会議もの”。「12人の優しい日本人」をはじめ、“密室劇”こそがこの劇作家の最も特異とする舞台設定であることは明らかで、ようやく三谷幸喜がそこに帰ってきたのかと喜んだ。
その時点で原作小説を読んでも良かったのだが、同時に映画化決定という報を聞き、我慢することにした。
そうして鑑賞。
題材自体は極めて面白いし、描き出そうとした人間描写とテーマ性も興味深い。
決して面白くない映画ではないと思う。
ただし、物語としての作劇が浅く、故に後に残るものがとても薄い。
辿り着いた結論としては、結局冒頭の一文に尽きる。
もっとしっかりと時間と労力をかけてストーリーテリングの作り込みに注力したなら、歴史的にも、人間的にも、深みが備わった喜劇に仕上がった筈だ。
過剰なほどに豪華なキャスティングが悪いとは言わない。
けれども、揃いも揃った豪勢な俳優陣を並べ立てたはいいものの、それに対してただ浮き足立つばかりで、目先の陳腐なコメディに走っていては、本末転倒もいいところ。
残念ながらこの劇作家には、これほどの豪華キャストを“監督”としてさばくだけの度量は見受けられない。
西田敏行や天海祐希をせっかく呼んだけど思ったよりも面白いシーンにならなかったから、カットしよう!くらいの剛胆さがなければ、このキャスティングが逆に勿体ない。
三谷幸喜は、監督業に早々に見切りを付けて、今一度“脚本家”としての原点回帰をしてみるべきだと改めて思う。
そして、西村雅彦、梶原善、相島一之ら劇団時代からのメンバーで再構成された舞台版「清須会議」が観てみたい。
あ、大泉洋はTEAM NACSからの“客演”として秀吉役を続投で良いよ。