4.《ネタバレ》 冒頭の俯瞰の瓦屋根ショットとタイトルデザイン、情緒を排し障子や格子による幾何学模様を強調した家屋セット、そして登場人物の早口ダイアログ。
いわゆる「クール、スピーディ、グラフィック」、そして「モダンと伝統」の市川崑スタイルである。
映画は情動的なシーンを出来るだけ排除し、あるいはそうしたシーンをロングに引き、あるいは大泉洋の客観ショットを挿入し(姉妹の再会シーン)、あるいは暖簾の陰にわざと隠すように演出し(ラストの旅立ちのシーン)、ドライに徹する。
火ぶくれの傷に繊細に触れる・触れない、相手を見たい・見てはいけない、そういう絶好の映画的シチュエーションの処理もなかなか軽妙だ。
ただし、複数のエピソードの交錯によってドラマの流れは散漫である。ラスト近く、大泉と戸田恵梨香のやりとりと寺内の騒ぎがクロスカットされるのだが、
このクライマックスも単にそれぞれの状況の羅列であって噛み合わず、何ら相乗の効果をもたらさない。
所々で差し挟まれる市川的スローモーションも全く必然性のないショットばかりで(水を掛けられる大泉など)、アクセントとしても不発だ。
単なる説明に終わる密偵のエピソードなどの残念具合といったらない。
屋内への外光の入射や製鉄の炎や行燈など、光源を限定して暗がりの中に女たちの表情を浮かび上がらせる前半のショットは
晴れて寺を下るシーンで何らかの対照をもたらす為ではなかったのか。