3.英国史に馴染みのない人にとってはハードルの高かった前作からは一転して、本作はアルマダ海戦という大きな山場に向かって一直線に走る内容だったので、かなり見やすい作品となっています。物語は徹底的にシンプルにまとめられており、エリザベス女王の苦悩を描き出すことのみに専念。さらには、王族出身者ならではの苦悩という特殊事情は控えめとし、仕事をバリバリこなしているもののプライベートでは孤独を抱える女性という切り口に徹して現代の観客にも共感可能なドラマを目指しており、観客にかなり配慮して作られた作品だということが伝わってきました。
しかし映画とは難しいもので、こうした配慮が概ね裏目に出ており、かえってドラマ性が薄まっています。イングランドを王族同士の婚姻を通じて飲み込もうと迫ってくる周辺諸国と、「結婚する気はございません」の一点張りでのらりくらりとかわすエリザベス。彼女が背負っていたものは現代のキャリアウーマンのそれとはまるで異なるため、これを大衆的な価値観で理解しようとすることにはそもそも無理があったのです。ここは定石通りに当時の国際情勢や、彼女の母・アン・ブーリンが辿った末路といった切り口から彼女の心情に迫る方が分かりやすかったはずなのに、おかしな形で一般化しようとしたためにかえって感情移入が難しくなっています。
また、ウォルター・ローリー卿と侍女・ベスとの三角関係にも、特に感じるものがありませんでした。自由に恋愛ができないエリザベスは、侍女の恋愛話を聞くことで自分自身の欲求をごまかしていたのですが、その侍女の一人がよりにもよって意中のローリー卿に手を出した。彼女からすればやってられない状況なのですが、前述した通り「なぜエリザベスは恋愛をしないのか」という政治的な背景が描かれていないために、パブリックな立場とプライベートな感情の間で板挟みになった彼女の苦しみがピンとこないのです。
当時の国際情勢が描かれていないため、山場となるアルマダ海戦にもさほどの興奮が宿っていません。弱小国だったイングランドが、世界最強のスペインから仕掛けられた喧嘩に受けて立って大勝利したというドラマチックな戦だったはずなのに、当時のスペインがいかに強かったかという煽りや、イングランド側が戦いを受けて立とうと決意するまでの過程、絶望的な戦力差の中でいかにしてアルマダを破ったのかという戦略面での説明などがことごとく抜け落ちているのです。これは勿体ないと思いました。