7.《ネタバレ》 シリーズ46作目。初っ端から満男の就職氷河期直面が重くリアルで、観ていて辛いロスト・ジェネレーション世代です。就職という現実から目を背け、香川の孤島に住み着く満男。辛い就職活動を放りだして、島で生き生きと働く様子は『決められたレールだけが人生じゃないんだよ』というメッセージだろうか。今までも『消費税』やら『踊るポンポコリン』やら『バブル崩壊』やら、時代を表すキーワードは出てくる作品だったけど、ここまで時代と真っ向向き合った回は初めてに思う。
笠智衆さんが亡くなっていました。かつて飈一郎役の志村喬さんが亡くなった際は、劇中三回忌を行い、現実と劇中をリンクさせていましたが、今回はレギュラーの御前様。制作陣は『御前様は出てこないけど元気にしている』というシナリオを選んだようです。
レギュラーキャラのこの扱いから、当時の渥美さんの体調を考えると、いつ最後の撮影になるか解らない中、山田監督は男はつらいよの『最終回』を用意しないことにしたのでしょう。冬子まで出して、さくらに何度も何度も『御前様はお元気?』と言わせる。現実世界と劇中世界のリンクを外すことにしたんでしょうね。もしかしたらこの先、渥美さんが亡くなっても、寅さんは亡くなってない、そんなファンタジーの世界を創ることにしたんじゃないでしょうか?
ここまでだと、42作目『ぼくの伯父さん』の終わり方が、最終回らしく綺麗でした。満男(&泉)のスピン・オフで、男はつらいよ世界の延命を図ったけど、正直あまりしっくり来なかったんでしょうね。私も残念ながら、満男にそこまでの魅力を感じてないです。
あくまで“寅次郎の甥っ子”でしかない満男。寅=バットマンだとすると、満男にジョーカーほどの魅力がなかったんですね。満男は精々ロビン。ロビン単体じゃ映画は作れない。
さて、かなり脱線しましたが、満男と亜矢の恋は初々しくて良かったと思います。満男の離島での生活を、現実世界で苦しむ若者へのメッセージだとして、急に亜矢を捨てて東京へ帰る決意をする満男。え?何で?って思いましたが、満男は、リアル過ぎる就職難の現実から、笠さんが亡くなっても御前様は亡くならない、時間が止まったようなファンタジーの世界、寅さんの世界に帰ったんだと考えました。
両腕をブンブン振って見送る亜矢。どんどん小さく遠くなりながら、最後はうずくまって悲しみを表現する姿が可哀そうで…どうして城山美佳子をマドンナ扱いしないのか謎。
そしてどうせなら、一度東京に帰って、あれこれ整理して虎さん世界からFOして、晴れて琴島で亜矢と再出発を決める満男を出しても良かったかもね?
…いや満男が邪魔とか、そういう事じゃないんですよ?