2.《ネタバレ》 かなり昔にTVで見たことがあり、その時点で記憶に残ったのは船を一杯二杯と数えていたことだったが、今回は伊号第七潜水艦(イ7)を「いのななせんすいかん」と呼んでいるという細かいところに気づいた。軍艦は往時の円谷特撮で映像化しており、戦艦大和のような有名どころでない地味な艦を大型の模型で細かく作ってある。個人的には海防艦国後の造形に注目した。
内容としては実際あったエピソードの組替えや一部改変で映画向けの物語を作っているが、結末はわかっているので不安要因はあまりない。司令官は臆病者かと疑うこともなく、また申し訳ないが最後の歓喜も予定通りに見える。
しかし途中で味方と衝突したとか、海岸近くをぎりぎりで航行する(少し誇張気味か)あたりは手に汗握る雰囲気を出している。そもそも司令官がこの役者であるからには、やる時はやるはずだというのもあらかじめ見えており、実際に潮流が激しい場所を恐る恐るでなく全速で一気に乗り切る場面を作っていた。だいたい水雷戦隊司令官が臆病者では務まらない。
また当然ながら現代の感覚で好感が持たれるのは、精神論より合理的判断を優先した気象班長のエピソード、及び撤退時に陸軍兵が銃を海中に捨てていた場面である。これは天皇から預かった銃が生命より重いかのように思われていた時代に、道具より人間を優先した指揮官がいたという史実をもとにしている。
太平洋戦争で日本が守勢に回って以降、ほとんど唯一完璧に成功したのが撤退作戦だったというのも情けないが、現代の感覚としてはまあそんなものだと思わなくはない。全員逃げてからも敵は気づかず、上陸作戦で大混乱だったというのは痛快ではあるが、どうせなら同志討ちの米兵も死なずに済めばもっと完璧な結末だったろうと思ったりする。
なお劇中では、なぜか犬をつないだまま逃げていたので心配させられたが、これも米軍の上陸時点でちゃんと生きていたらしい。
ほかこの作戦のために潜水艦の乗員69人が犠牲になったのが玉に瑕のように見えたが、この事件自体は映画での創作だったようである。台詞にもあったが史実としては、それ以前の段階で撤退や補給に従事していた潜水艦が何隻か失われたとのことで、それをこの映画ではイ7潜1隻で代表させた形だったらしい。映画を見ていると、艦隊参謀に続いて発射管室の人々くらいは出られるのではと思ってしまうが、そこは残念ながらもう間に合わなかったことになっていた。