2.《ネタバレ》 女の子のための女の子のささやかな冒険物語と思う。ノンちゃんは基本的に良い子で優等生、嘘をつくのが嫌い。母と兄が自分に嘘をついて、東京に出かけてしまったことが許せずに泣いて外に出る。そこで雲を映した池に落ちて、雲の上でおじいさんと話をする。
◆ファンタジーとしての要素は少ない。特別な冒険をするわけでもないし、試練が待ち受けているわけでもない。ただおじいさんに自分の話をするだけだ。最後に試験はあるが、自分は嘘が嫌いな人間であることを再認識することで終わる。相手の立場になって考えることはできず、杓子定規ぶりは変わらずだ。現実世界に戻って、長吉との諍いは長吉が黙っていることで、結局避けたことになる。成長したのはむしろ長吉の方だ。ひれふす心や相手の立場になって考える事を学ぶことを物語の中心に据えながら、最終的に答を出していないのは物足らなく思う。とはいえノンちゃんにとって雲の上での体験は、貴重な自分探しの旅であり、自分と友達、自分と家族の有り方を見直す契機になっている。そして誰に対しても愛おしく感じられる感性を身に着けて帰ってきた。
◆魅力的な挿話がつまった物語ではないものの、観てよかったと思う。それは忘れてしまった子供時代のみずみずしい感性や、出来事を思い出したからだ。柿の葉っぱの色が変わるのを発見するとか、もしおかあさんがいかなったどうしたらよいかと初めて感じるとか、今がいつの間にか昔になってしまうのを初めて認識するとか、兄の半端じゃないやんちゃぶりなど。誰でも昔に経験し、今では忘れてしまっているようなことが鮮やかに甦る。観る人の共感を得るのはこのためだろう。兄の存在がなければこの作品は平凡すぎる一家の物語になってしまい、魅力の乏しいものになっていただろう。良い子過ぎても困るし、わんぱく過ぎても困る。いつの時代は子育ては難しいものだ。
◆原作と違い、ノンちゃんが泣いている理由を明らかにせず、中盤でその理由を明かすことで、物語に起伏をもたせること成功している。
【豆知識】①鰐口晴子はオーストリア人とのハーフで、ハプスブルク家の血を引く高貴な家柄。当時天才バイオリニストとして有名だった。②原作は1942年から書き始め、1947年に上梓、1951年に出版社を替えてから売れた。③原節子の病気療養後の作品であり、初めての母親役ということで話題になった。そのためポスターは原節子が中心。