1.《ネタバレ》 ■女子高生の嵐は、学芸会の主役を親友の御園に奪われてしまう。傷ついた嵐は、彼女がいつも自転車で通う道に水を撒き、凍らせて怪我させようと企む。ところが御園は本当に転倒し、車に撥ねられて死ぬ。
■嵐は、同じクラスの歩美君が生きている者と死者を逢わせる「ツナグ」をやっていることを知り、御園が自分のしたことを知っていて誰かに話されると困るので、一度しか降霊できないルールを逆用し、自分が御園に逢えば彼女はほかの人に逢えなくなると考えた。
■だが降霊した御園は、何も知らないようだった。嵐は告白できないまま別れる。最後に「歩美君に伝言を聞いて」と言われた嵐は、歩美から「道は凍ってなかったよ」と聞かされる。御園は何もかも承知で、嵐が切り出すのを待っていたのだ。御園は本当は歩美に逢いたかったのに、嵐に謝罪のチャンスを与えてくれたのだった。事態を悟った嵐は、歩美に「朝まで御園のそばにいてあげて!」と叫ぶが、夜明けが来てしまう。死者が降霊できるのは夜明けまでなのだ。
■まず初めに、降霊してきた御園は歩美に「そのコート、かっこいいね」と言った。すでに死んだ御園にとって、それが口にできる精一杯の愛情表現だった。ところが嵐も歩美にツナグの依頼をしたとき、同じことを口にしたと御園は聞かされる。御園は主役の座だけでなく、歩美のことも嵐に奪われると察知した。御園は別れ際に、歩美に「歩美君は悔いがない生き方をしてね」と言う。死者はその運命を受け容れ、この世に未練を残してはならないのだ。
■物語は最後に、学芸会「櫻の園」のシーンに至る。嵐演じるラネーフスカヤ夫人は、生家の没落を受け容れられず、ロパーヒンに「行かないで、お願い!」と懇願する。しかし最後には運命を受け容れ、「私の青春、私の幸福。さようなら」と生家に別れを告げ、娘に名を呼ばれると「今行きますよ」と言う。この台詞は本来なら、御園が言うはずだった。「行かないで、お願い!」という台詞は、歩美が着くまで消えないでいてほしい、それが邪悪な思いを抱いて逢おうとした自分のせめてもの償いだとする嵐の心情であり、「私の青春、私の幸福。さようなら」という台詞は、この世への執着を捨て旅立って行く御園の心情と、見事な相似を成している。死んだ者と生き残った者が、それぞれの運命を受け容れて「今行きますよ」と前に進んで行く、その橋渡しをするのがツナグなのだ。