22.《ネタバレ》 「大人向けの絵本」という、一見すると矛盾した表現が似合う作品。
中島監督作といえば「下妻物語」も「嫌われ松子の一生」も、現代の寓話、大人の為の絵本というフレーズが似合いそうな趣きがありましたからね。
本作においても、感動と笑い、対話と活劇、それぞれの要素がバランス良く詰め込まれていたように思えます。
印象深いのは、人間としての「強さ」に拘っていた主人公の大貫が
「強くなきゃ、会社も興せなかったし、財産だって……」
と言いかけてから、手に入れた二つが絶対的な価値を持つものではないと悟ったように、言葉を詰まらせるシーン。
正直、ここに至るまでは
(いくらなんでもオタクっぽさが濃過ぎる)
(テンションの高いギャグシーンにも付いていけないし、この映画とは相性が悪い)
と、少々うんざりしながら観賞していただけに、ここでハッとさせられた感じでしたね。
劇中の大貫が「周りを見下していた傲慢な人間から、心を入れ替えて誠実になる」という変化を遂げる流れと、観客として、上手くシンクロ出来た気がします。
この手の「主人公の改心話」というのは王道ネタであり、決して目新しくはないのですが
「急に良い人ぶりやがって」
「今更善人ぶったって手遅れなんだよ」
という批判が、作中で行われている辺りも面白かったです。
人生という枠組みで考えてみた場合、晩年に良い人になったとしても、それまでの長い年月を悪人として過ごしたのだとすれば、彼を一概に「善人」という括りでは語れないでしょうからね。
物語としては、悪人から善人に転身した者の方が輝いてみえたりもしますが、実際は「一度も悪人にならず、生涯を善人で通した人」の方が、ずっと立派だよなぁ……なんて考えが浮かんできたりもしました。
こういった道徳的な側面というか「観る者に考えさせる」描写を挟んでいる辺りは、実に絵本らしくて良かったと思います。
個人的に最も好きなのは、落ちぶれた元子役と、彼のファンだった看護婦とのやり取り。
「その子は、ろくでなしの親と二人暮らしで、貧乏で、馬鹿で、不良で、生きてても、何にも良い事なくて……」
「だけど、その男の子を観ている時だけは、凄く幸せで……」
「アンタは、その子の夢だった」
という独白から、彼に「俳優」としての再起を促す件は、本当に良かったですね。
この映画におけるクライマックスは、ここだったんじゃないかと思ってしまうくらい。
それが影響しての事なのか、終盤にたっぷりと尺を取って描かれる「ガマ王子VSザリガニ魔人」の劇については(ちょっと、長過ぎじゃない?)と思えたりもして、残念。
「皆で劇をやろう!」と決意して、それぞれ稽古したりする件が一番盛り上がっていたと思うので、劇そのものは、もっと短く、アッサリ済ませた方が良かったんじゃないでしょうか。
それと、本作の特徴としては、感動と笑いを交互に提供するような演出が挙げられるのですが、劇の中でザリガニ王子を倒す件で「笑い」の方を選択し「ドリフかい!」で倒しちゃうのも、ちょっと好みとは違っていましたね。
それまで充分に笑いは取っていた訳だし、敵役を倒す場面はシリアスに、感動の方で〆て欲しいと願っていただけに(あぁ、そっちを選んだのかぁ……)と嘆息させられた形。
劇の最中、発作を起こして死んだと思われた大貫が、実は生きていたというオチの後
「死んだ方が良かったかにゃ?」
「そっちの方が感動的だし……」
なんて会話を交わして、笑いを取ったのに、大貫を改心させたパコの方が死んでしまうという「感動的」な展開に移行するのも、ちょっと悪趣味に思えてしまい、ノリ切れず。
最初は白け、途中からは大いに没頭し、終盤にて再び白けてしまったという形の為、何とも評価が難しいですね。
「観客をふるいにかける映画」なんて言葉がありますが、この映画で最後まで落ちる事なく楽しめた人にとっては、凄まじい傑作と思えるんじゃないでしょうか。
自分は残念ながら脱落してしまった訳ですが……
付いていけずに落とされた後にも、魅力の余韻が残る一品でした。