2.《ネタバレ》 問題の立て方は悪くないのだが、どうも映画としてザクッとくるところがない。そのエッジの不確かな鈍痛感こそ、在日外国人の痛みに一番近いのかも知れないけど。タクシー運転手という、他人と一対一の仕事場の面白さがあまり生かされなかったのでは。一番実感があったのは、乗り逃げ客の場だな。姜(が)さんと呼ぶ、自称韓国問題に関心のある客、ただただ穏やかに受けていく忠男、逃げた後の追っかけがあって、客は開き直って暴れ、次いで手をついて謝り、次いで防御の姿勢を取るところがおかしい。日本そのものの戯画として秀逸。釣銭を渡すのがいい。道に迷う新米、東京タワー、黄金のウンコ、の次に富士山が来る。タクシーの漂流の感覚と出稼ぎ者の感覚、その「地に足が着いていない」心細さと自由さ、それらをもっと詰めれば、在日の問題が普遍的なテーマにまで広がったようにも思えるが、ちょっとタクシー会社内のシーンの比重が大きすぎた。この浮島のような会社が燃える、ということの重さがも一つ感じられなかった。アイデンティティの不確かな世界を、満ちては欠ける月だけを頼りに車を走らせていく、って設定は理解できる。