1.戦争終わってすぐなんて、レジスタンスが活躍する勇壮な映画がたくさん作られていた興奮期だと思うんだけど、なんかこれは視線が落ち着いてる、状況と距離を置いて眺めている感じ。なにしろファシスト側から描くなんて発想が出てくるのは「十年早い」んじゃないか、いや悪口じゃなくて褒めてるの。いままで強固だと思っていた地盤がぼろぼろと崩れていく寄る辺のなさが、潜水艦の密閉された空間に滲み出してくる。強固な鋼鉄の壁の中で、中身だけが徐々に腐敗していく感じ。最後まで千年王国を信じることにすがろうとするゲシュタポなんか、『日本のいちばん長い日』にも似たのがいたなあ、とシミジミさせられた。そのうつろな帝国と化した潜水艦から、現実の歴史という荒波に浮かぶボートに乗り移っていく場面の、ボートとともに揺れるドキュメントタッチのカメラが効いている。語り手となったフランス人医師だけがその帝国の残骸の潜水艦に残される皮肉。ああいう語り手を登場させた意図が十全に生かされていたとも思えないが(偽伝染病発生作戦の中途半端さ、あるいは南米で彼が目に出来なかったシーンが展開すること)、全体に距離をおいた冷静さが映画に生まれた。