1.名美ではなく村木の物語だからなのか、それとも監督が相米だからなのか、石井脚本なのに劇画調ではなく初々しさすら漂うラブストーリーとなっている。物語は借金で首がまわらなくなりヤクザに妻を陵辱されてしまう村木が自殺を図ろうとするところから始まるのだが、日活ロマンポルノであるにもかかわらずその陵辱シーンは無い。ヤクザに陵辱される女という石井劇画の名美的な位置にいる妻と村木の慎ましやかな純愛ストーリーが僅かながら本筋の合間に挿入される。ささやかなサイドストーリーはささやかだからこそ妻と名美がすれ違うラストシーンに活きてくる。相米らしからぬ完成度、というと相米監督の他の作品がダメみたいに聞こえるがそうじゃなくて、行き当たりばったり的なところが相米作品の好きなところだったりして、むしろこれは出来が良すぎて拍子抜けしてしまったくらい。相米監督が苦手だという人にはお薦めかもしれない。