6.《ネタバレ》 原作付きの映画ということになるがまともに読んだことはない。
当時の感覚としては「未知との遭遇」(1977)などよりはるか大昔から、日本ではこういう壮大なスペースファンタジーがあったと言いたかったのだと思われる。最初がまるきり「まんが日本昔ばなし」だったのは少し呆れたが、求婚者のうち一人を本命扱いして純愛物語のようにしたのは悪くなく、衣装にかなり力が入っていたのが目を引いたりして、娯楽映画としてけっこう楽しめるものになっている。大昔にTVで見たときには割といい印象だったのを憶えているが、それもそれほど間違ってはいなかったらしい。ただ主人公の姫は人物造形が不十分のようで、どういう人格なのかがはっきりせず、結局あまり好きになれなかった。また眉毛をきつい感じで描いていた割に凛とした感じが足りないようでもある。
ところで少し気になったのは劇中年代がいつなのかということで、原作で求婚者のモデルになったとされるのは飛鳥時代から奈良時代初期にかけての人々だが、映画のラストでは「八世紀の末の(西暦七九〇年頃)ことである」と出たので少し驚いた。七九〇年が西暦というなら八世紀も西暦だろうがそれはまあいいとして、この時代設定だと劇中の「帝」は桓武天皇ということになり、従来の世界観を覆す出来事に触発されたために(長岡京を経て?)平安京へ遷都したということにしたかったのか。
そうすると映像に出る条坊制の都は藤原京ではなく平城京だったことになるが、それなら最初の風景映像に出た大和三山のような感じのもの(4つ見えるが)は何だったのか。また劇中人物の名前でも「耳成の長者」「畝傍の真名井?」といったようなのがあり、どうも最初は飛鳥時代のこととして制作を進めていたのが、途中で方針を変えて前記キャプションを入れたので変になったのではという気がした。
なお自分として面白かったのは、求婚者の一人が竜を発見した場面が東宝伝統の怪獣特撮だったことで、ここで海面に竜が現れたので船が危ないと思ったら、いったん無視して通り過ぎていったのはかなり意外で斬新だった。怪獣映画なら最初から狙ったように船を壊しに来るだろうが、この映画では変に刺激しなければ難を逃れられたはずというのが野生生物的といえる。