7.《ネタバレ》 本作がアカデミー賞監督賞にノミネートされ、作品賞にノミネートされなかったのは何となく分かった気がする。
単純な感動作でもなければ、単純な伝記映画でもない、本作を観てストレートに感動する人はそれほど多くないのではないか。
しかし、魅力のある作品とも感じられるのも間違いない。
この題材を扱って、こういったアプローチや映像的なテクニックを駆使できる監督は少ないと思う。
本作が「普通の感動作」ではないという点は、逆に評価ができるポイントだ。
また、ジャン=ドミニク・ボビーという人物がどのような人物かも余すところなく描かれているのも評価できる。
彼の視線、彼の想像、彼の記憶、瞬きで綴られていく彼の文章を通して、彼が何を考え、何を感じ、何を想ったかが伝わってくる。
単純な伝記映画とは異なる手法だが、彼の人生を深く感じられたと思う。
多少の物足りなさは覚えるが、押さえるべき点はきちんと押さえられている。
「父親との関係」「妻との関係」「子どもたちとの関係」「愛人との関係」「支えてくれた医療関係者等の関係」「黒人親友との関係」が深くはないが、浅くもない程度に描かれている。
そして、「妻と愛人とジャンとの関係」も見事としか言いようがない。
妻の言葉を借りて、愛人への愛を語るというシーンが特に印象的だ。
妻がどのように感じるかをジャンは分かったとしても、あのセリフを愛人にどうしても伝えたかったのだろう。
愛のために生き、自分に正直だったのが彼らしいところではないか。
「妻ではない。子どもたちの母親だ」というセリフがあり、妻への愛は失っているものの、妻以上に痛みを伴っての発言だと思いたいものだ。
シュナーベル監督は「バスキア」「夜になるまえに」に引き続き、実在の人間を扱った映画を撮った。
思い通りにいかないもどかしさを抱える主人公が困難に立ち向かいながら、才能を開花させていくという構成やアプローチ自体はどれも似ている。
どの作品も素晴らしい作品であるが、どの作品も視覚的な描写が重視され過ぎている気がする。
文章や詩のように脳で楽しむ映画というよりも、眼で楽しむ映画になっている。
画家である彼らしさを感じられるようにはなっているものの、他の映画とは異なる作風なので、多少の違和感を覚えるのではないか。