1.《ネタバレ》 裁判的には、あの女医は有罪でしょう。致死量を超える鎮静剤で事を収めた訳ですから。病人を苦しませたのは失態でした。しかも、慄く家族の前で子守唄なんか歌うもんだから、そりゃ異常に映ります。執行猶予付きの判決は、まことに日本らしい決着のつけ方だと思いました。
私は年齢的に患者側の立場で見ていました。自分も延命措置なんてして欲しくない。大方の人はそうだと思います。ならば、何をしておくきべきなのか。普段は考えないことなので、刺激的でした。
興味深かったのは女医の描写です。覇気が無くコミュニケーションが下手。オツムは優秀だけど、計算高いことは出来ない。技術を持っているから医者は出来ても、文系なら社会で使いものにならないタイプ。営業スマイルなんて、絶対に無理でしょう。その人物像がとてもリアルでした。真面目過ぎて、上手に生きられない。そんな薄幸な人を草刈民代はそれらしく陰気に演じていました。
【信託】とは信頼して任せること。人生の最期を信託するのは肉親であるべきですが、それが叶わない場合、本作の女医のような人は信頼できると思いました。無器用な女医の生きざまと、生死に於ける信任のバランス。それが本作の重たい見応えに繋がっているのだと思いました。