1.市川崑作品としては、横溝正史シリーズと『細雪』との中間にあって、まだ前者の雰囲気をひっぱりながら後者への準備となった、と思えばそれなりの意味もあったのかもしれないが、いかんせん、つい中村登監督1963年松竹版が思い出されて比較してしまう。この映画が撮られた1980年の京都というと、市電もなくなり、それまでのみやびさが陰湿さ一方につつまれた京都とちがって、明るさと小綺麗さが出てきた京都だったように記憶する。もうしっとりさも薄らいできた時分だった。そうした時代性もあるのか、松竹版の深みが感じられない。松竹版の成島東一郎の撮影、武満徹の音楽の調子の高さにも比べようがない。岩下志摩に比べると、山口百恵は呉服屋の箱入り娘の雰囲気にはなく、なにか問題ある家の薄幸の若い女(テレビの赤いシリーズの延長線!)という感じだった。せっかくの市川崑の映像美もからまわりというべきか。残念。