1.《ネタバレ》 序盤は最高。宇宙人の超越的な力と人類の反応をリアルに描き、知的ながらも見せ場としての面白さも十分。クラトゥの生体構造の考察等、科学的にそれらしく見せることを大事にしているのが好印象です。しかしキャシー・ベイツが現れると途端に話は失速します。国防長官としての対応にまるでリアリティがないのです。宇宙人との接触という歴史的事件に、なぜ合衆国の一閣僚が交渉を行っているのか。ファーストコンタクト時に人類では勝てない相手だとはっきりしたのに、なぜタカ派の姿勢を崩さないのか。そして、ヘレンの息子ジェイコブが話に加わることで、映画はさらに失速します。悪態たれるわ、やかましいわ、警察に通報するわのやりたい放題。こいつの為にヘリに乗ってた兵士が死んでるのに、一切反省なし。あれだけクラトゥに悪態つきながら、いざ自分の命を救われると「あんたいい人なんだね」ってたいがいになさい。そんなジェイコブと再会したヘレンの言葉が「ごめんね、私が悪かった」。親がちゃんと叱らないから、馬鹿ガキが調子乗るんだよ。本来、この墓地の場面が映画のキーだったはず。人類の英知と理性を象徴するヘレンと、人類の排他性と身勝手さを象徴するジェイコブ(子孫が偉大な民族になるとの神の約束を受けたヘブライ人の祖)が、血はつながらず人種が違っていても愛情で繋がっていること、生命を機械的なシステムとして捉えるクラトゥ達よりも深く豊かな生命倫理を人類が持っていること(父を生き返らせてくれと懇願するジェイコブと、それに当惑するクラトゥのやりとりに注目。科学者や政治家をやり込めていたクラトゥが、ここだけは子供相手にも関わらず会話に負けています)、成長によりジェイコブ(=人類の未熟な面)は変わっていくことなどをクラトゥは知り、人類抹殺の中止を決意する最重要シーンだったはずなのに、これが感情移入しがたくなっているのが本作の致命傷。ラストのクラトゥの自己犠牲(=イエスの贖罪)もまったく立たないまま話は終わってしまいます。実はハルマゲドン兵器だったというエヴァンゲリオン初号機状態のゴート(司令室とちょうど目が合う拘束室もまんまネルフ)や、文明を食い尽すナノロボット等、後半のアイデアもなかなかよかったのですが、ドラマ部分の失速によりせっかくの見せ場もインパクト半減。見るべき点は少なからずあるのに、大事な所でコケたのが残念です。