9.《ネタバレ》 相棒は重要だ。特に探偵に相棒は必須だ。居ないとダメだ、必ず。相棒が居なければピンチのさなかも一人だし傷つくことを言われたって自力で回復しなきゃいけない。困った物だ。でも、ススキノの探偵には彼にぴったりの相棒が居る。
僕の同級生、彼は探偵だった。横浜で探偵をやっていた。引退した動機は「危ない目に遭って続けていく自信がなくなった」だそうだが、未だ彼の放つ雰囲気に、いつも僕は怯む。ソファでゲームをやりながら二人、どうでも良い会話が弾む。酒が入って勢いが付いてくると血の気の引くような体験談も飛び出すのだが、同じ話がループするので自然免疫も付く。
「あのさ、会社で不正をやってるおじさんが居て、突き止めた上で釘を刺したくなるよな」
などと冗談でつぶやく。酔ってグチっぽくなった。が、
「やるか。おい、面白そうじゃん。今からやろう」
乗らなくて良い話に、無くて良い行動力で乗ってくるのがこの男だ。え?いや、そこまでしなくてもね、良いんだけど。と詰まる僕の横でもう一〇四相手に適当な事を言っている。そして抗しきれない質問に、酒と普段の腹立ちからぽろりと情報を与え始めてる自分も、いつしか乗り気だった。
彼は一週間この件にのめり込んで、毎晩桜木町の飲み屋で会社のおじさんの意外な側面を僕に聞かせた。
一週間後の夜、
「やっぱりやめよう。この辺にしておくか」と、彼はらしくない事を言う。
「ん?んーもう良いでしょ。二重の浮気とか金が欲しい理由も分かったし、このまま話持ちかけたりしても後味悪いから俺もやめた方が良いと思うんだ」だよねーと同意するが、どうもそう言うことだけが理由では無いらしい。何か危ない目にも遭った、と言うのだ。詳細は語らないのだが、こりゃあ一人ではやらない方が良いし、何人か居てもこういうことはしないことにした。という。
やっぱり探偵は危ない目に遭ったときに登場する普段少し抜けてる相棒が居て、護るべきヒロインなんかが居ない限りは、割の良い業務じゃ無いらしい。とは言え、刺激的な一週間を過ごした。
この映画では、『俺』には味わいのある相棒と、女優のようなヒロインがバッチリ居る。ドラマの様なトリックとどんでん返しもあるのに、終盤に探偵がワイルドカードになってしまったのが、ひどく残念でならない。
そう言えば、あのおじさんの何が危なかったんだろう。聞きそびれた。