1.《ネタバレ》 ここ数年で個人的に感じていることなんだけど、(作品の良し悪しとは別にしても)とにかく印象に残るホラー映画が多い気がする。
例えば、実話モノながらエンタメ方向に振り切った傑作「死霊館 エンフィールド事件」、または超ド級の興行成績を記録した青春ホラーのリブート版「IT」(リブート前はTVムービー)。
他にもホワイトウォッシングから多様性に移りつつあるハリウッドにおいて、危険なレースカード(人種カード)を匂わせながら、大胆極まりないどんでん返しを決めた「●●●○○○」(タイトルは伏せます。)
或いは、得体のしれない不快感・恐怖感を纏った悪夢のようなホラー映画「Hereditary」(邦題・日本公開未定?)も強烈に記憶に残る。
一口にホラーと言えど、スラッシャーとかスリラーとか、お化けやら怪物やらと、その性格は様々。
話を本作に戻すと、「クワイエット・プレイス」は日本では世界最遅の公開となってしまったが、半年ほど前にその完成度の高さから話題となり、大ヒットを飛ばしたホラー映画である。
音に反応してやってくる得体のしれない捕食者から逃げ惑う家族。パニック・モンスター・サバイバルを合わせた典型ホラーのようだが、その真価はジョン・クラシンスキーが演じきり、クラシンスキーが演出した家族の絆にあったと思う。
末っ子を失った家族が抱えた心の傷が本作のドラマの中心。
音を立ててはいけないというホラー映画的テーマと、どのようにして気持ちを伝えるかというドラマ的な見せ場とが上手く調和している。
中でも父と長女の間の溝が深待っていく中、男同士の会話で長男が提示したアドバイスがシンプルながら響く。
「大好きなら、気持ちをちゃんと伝えてあげないと」
口に出して音にして伝えてもいい、それがだめなら手話で伝えてもいい。いや言葉も手話もいらないかもしれない。
伝わってくれればいい。
ホラー映画としても面白い本作だが、クラシンスキー流の愛の伝え方には目頭も熱くなってしまう。
実際に聴覚障害者であるミリセント・シモンズ(「ワンダーストラック」でも聴覚障害者を演じていた)の印象的な眼差しも心に残るし、「ワンダー」「サバ―ビコン」などで最近よく見かける子役のノア君も良い雰囲気。お父さんとお母さん役は、私生活でも夫婦であるクラシンスキーとエミリー・ブラント。抜群のパフォーマンスを披露していて、とても良い演者が集まっていたと思う。
総じて完成度の高いドラマティックな一作だ。
本作もまた冒頭に述べたような印象に残るホラー映画である。